聞法ノート 第三集 12
龍樹菩薩讃嘆
【浄土真宗の教え】
◆ 龍樹菩薩讃嘆
龍樹菩薩を称える句は序の四句につづいて次の十二句で顕されている。
釈迦如来楞迦山 為衆告命南天竺
龍樹大士出於世 悉能摧破有無見
宣説大乗無上法 証歓喜地生安楽
顕示難行陸路苦 信楽易行水道楽
憶念弥陀仏本願 自然即時入必定
唯能常称如来号 応報大悲弘誓恩
- 現代語訳
- ・ 釈尊は楞迦山で大衆に、「南インドに龍樹菩薩が現れて、有無の邪見をすべて打ち破り、
・ 尊い大乗の教えを説き、歓喜地の位に至って、阿弥陀仏の浄土に往生するだろう」と仰せになった.
・ 龍樹菩薩は、「難行道は苦しい陸路のようである」と示し、「易行道は楽しい船旅のようである」とお勧めになる。
・ 「阿弥陀仏の本願を信ずれば、おのずからただちに正定聚に入る。
・ ただ常に阿弥陀仏の名号を称え、本願の大いなる慈悲の恩に報いるがよい。」と述べられた。
- 意訳(しんじんのうた)
- 楞迦の山に 釈迦説けり
南天竺に 比丘ありて
よこしまくじき 真実のべ
安楽国に 生まれんと
みことのままに あらわれし
竜樹大士は おしえます
陸路のあゆみ 難けれど
船路の旅の 易きかな
弥陀の誓に 帰しぬれば
不退のくらい 自然なり
ただよくつねに み名となえ
ふかきめぐみに こたえかし
- *釈迦如来楞迦山 為衆告命南天竺
- 釈尊は楞迦経[りょうがきょう]を南天竺(五天竺の一つ=南インド)で一会の大衆に説かれた。
魏訳楞迦経に「如来の滅世の後、誰が為に説かん。未来にまさに人あるべし。南天竺の中において大徳比丘ありて龍樹菩薩と名づけん。よく有無の見を破して、人の為にわが大乗無上の法を説き、初歓喜地に住して安楽国に往生せん。」と、龍樹菩薩がお釈迦さま入滅の後の世に出られて、有無の見を打破され大乗無上の法を説かれることを予言されたことを親鸞上人は楞迦経から引かれ正信偈に顕されたことである。
- *歓喜地
- 歓喜地は菩薩道十地の位の最初の位の一つで、仏道修行全体では四一番目にあたり、あとすこしで仏になる位置に相当するもので、仏に近づいて心に喜びを生ずるゆえ歓喜地とあらわした。
- *大士
- 「大士とは菩薩のこと。大心を起こすものを大士という」とある。
- *悉能摧破有無見
- 龍樹菩薩は中論・有論・十二門論の三論をもって有無の見を摧破された。
- *顕示難行陸路苦 信楽易行水道楽
- 《十住毘婆沙論 易行品第九》に「仏法に無量の門あり。世間の道に難あり易あり。陸道の歩行は苦しく、水道の乗船はすなはち楽しきがごとし。菩薩の道もまたかくのごとし。あるいは勤行精進のものあり、あるいは信方便易行をもって疾く阿惟越致[あゆいおっち](不退転の位)に至るものあり」(意訳:〈仏法にははかり知れない多くの教えがある.たとえば世の中の道には、難しい道と易しい道とがあって、陸路を歩んで行くのは苦しいが、水路を船に乗って渡るのは楽しいようなものである.菩薩の道も同じである.自力の行に励むものもいれば、他力信心の易行ですみやかに不退転の位に至るものもある〉とある)。
- *憶念弥陀仏本願 自然即時入必定 唯能常称如来号 応報大悲弘誓恩
- 同じく易行品第九に
「もし人疾く不退転地に至らんと欲せば、恭敬心をもって、執持して名号を称すべし」、
「阿弥陀仏の本願はかくのごとし。もし人われを念じ名を称しみづから帰すれば、すなはち必定に入りて阿耨多羅三貘三菩提を得と。このゆへに常に憶念ずべし」とあるのによる。
この「憶念」について、利井鮮妙師は「正信偈摘解」に「憶念とは、憶持不忘の義にして、聞信受持して亡失せざるをいう。爾れば憶念の言は相続よりたつ言葉なり。爾るに今はこの相続の言葉をもって初沖の安心を呼ぶ。この信臨終まで相続すべき信なるがゆえに憶念不忘の信という。咲いたその日より百日紅というがごとし」と注解され、また「もし人疾く不退転地に至らんと欲せば」は現生不退の義を示すとある。
「阿弥陀仏の本願を信受するものはその信心をいただいたその時、即時に本願力のはたらきによって不退転の位を得ることができる。信をいただいた今、そこには唯ただ南無阿弥陀仏と弥陀の名号を称え、阿弥陀仏を讃め称え、如来の大慈悲に報恩感謝せよ」と親鸞聖人は仰せになっているのである。
正信偈大意には「唯能常称如来号 応報大悲弘誓恩といふは、真実の信心を獲得せん人は、行住坐臥に名号を称へて、大悲弘誓の恩徳を報じたてまつるべしといへるこころなり。」と示されている。
*「物にあくことはあれども、仏になることと弥陀のご恩を喜ぶことは、あきたることはなし。焼くとも失せもせぬ重宝は南無阿弥陀仏なり」(蓮如上人御一代聞書231)
不退のくらゐすみやかに
えんとおもはんひとはみな
恭敬の心に執持して
弥陀の名号称すべし
高僧和讃龍樹章(六)
[釈勝榮/門徒推進委員]
◆ 編集註
「有無の邪見をすべて打ち破り」については、{空の概念と虚無の概念の違い}に、
「歓喜地」については、{正定聚・不退転の菩薩について}に、
「難しい道と易しい道」については、{『十住毘婆沙論』と『往生論註』}にも詳細が掲載されていますので参照下さい。
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