還浄された御門徒様の学び跡


聞法ノート 第二集 9

禁父縁・禁母縁

【浄土真宗の教え】
『仏説観無量寿経』 序分 発起序 厭苦縁【4】・欣浄縁【5】/『顕浄土真実教行証文類』 総序/『仏説観無量寿経』 正宗分 散善 下下品【30】/『仏説観無量寿経』 流通分【32】等より

 禁父縁[ごんぶえん]禁母縁[ごんもえん]

 お聖教を拝読するとき小見出しがあり、観無量寿経には「発起序」にタイトルの「禁父縁」、「禁母縁」等の見出しがあります。「禁父」とは父王を監禁したできごと、また禁母縁とは禁父縁により母を監禁するに至ったいきさつでありましょう。こうして観無量寿経はお釈迦様の説法につながっていきます。王舎城で阿闍世王子は、提婆達多にそそのかされ父王を殺害し自分が王になろうとします。

 六師の教えの中に「王法とは父王を殺し自分が王になることだ。だからそれは罪ではない」という考えがありました。まさに王権を手に入れるためには父をも殺すという逆法の最たるものである。幽閉された王に夫人の韋提希は王子に隠れて食事を運ぶが、それも露見し王子は母をも殺そうとします。
 この境遇の中で韋提希夫人は世をはかなみ、お釈迦様に救いを求めます。
 お釈迦様はその悲しみを聞き取られ、ただちに韋提希夫人の前に諸菩薩と共にすがたをあらわされました。

 韋提希夫人はこう訴えられたという。 「世尊、われむかし、なんの罪ありてかこの悪子を生ずる。世尊また、なんらの因縁ましましてか、提婆達多とともに眷属たる」と。

 現代語訳
世尊、わたしは何の罪があってこのような悪い子を生んだのでしょうか。世尊もどのような因縁でもって、提婆達多と親族なのでしょうか。
そしてつづけて
「どうか世尊。わたしのために憂いも悩みもない世界をお教えください。わたしはそのような世界に生まれたいと思います。この濁りきった悪い世界にはもういたいと思いません。この世界は地獄や餓鬼や畜生のものが満ち溢れ、善くないものたちが多すぎます。わたしは二度とこんな悪人の言葉を聞いたり、その姿を見たりしたくありません。いま世尊の前にこのように身を投げ出し、哀れみを求めて懺悔します。どうか世の光でいらっしゃる世尊、このわたしに清らかな世界をみせてください」と願われました。
 ここに観無量寿経を釈尊が説きいだされる縁が起こったことであります。

 教行信証の総序で親鸞聖人が「浄邦縁熟して調達、闍世をして逆害を興ぜしむ。浄業機あらわれて釈迦、韋提希をして安養をえらばしめたまえり」とあるのは、この縁を仰せになっています。このような父を殺し母を害しようとする悪逆の王子の物語を縁にして観経が説き出だされる。このような縁が熟さなければならなかったのでしょうか。そこには涅槃経に説かれている六師外道の教えが当時のインド社会に生きていた背景があるようにも思えます。
 韋提希夫人の悲痛な叫びを聞きとられ、釈尊はここに定善十三観、散善三観を説かれました。
 その第十六観下品下生のものの浄土往生を願うには「善知識に導かれ前非を悔い改め」「ただ南無阿弥陀仏を称えよ」とあります。
 その名号の不可思議の願力により念々八十万億劫の罪を滅するとあります。
 経の最後のところでお釈迦さまは、
「汝よくこの語をたもて。この語をたもてとは、すなはち無量寿仏の名をたもてということである」と阿難尊者に告げられました。

 観無量寿経では、阿闍世王子そのものが慙愧し心をいれかえ、仏に帰命することは説かれてはいません。
 しかし下品下生のものの救われて行く姿こそ、阿闍世の救いを暗示し、「阿闍世とは迷えるすべての衆生」と説かれ、そのために「無量億劫涅槃に入らず」と涅槃経には釈尊の大慈悲心が明かにされ、ここに五逆十悪の悪逆非道のものが本願により救われてゆくことを強く示されていることであります。
 教行信証にはまことに縷々と涅槃経をはじめ多くの経論をひかれ、逆謗のものの救われることを繰り返し繰り返し示され、ご本願をいただかれ、慶ばれる聖人のおこころこそ、いまわたしたちは心底からいただかねばならぬ、ありがたく、そして不可思議な仏縁でありましょう。

釈の親鸞、慶ばしいかな、西蕃・月支の聖典、東夏・日域の師釈、遇いがたくして今遇うことを得たり。聞き難くして既に聞くことを得たり。真宗の教行証を敬信して、殊に如来の恩徳の深きことを知んぬ。ここをもって聞くことを慶び、獲るところを嘆ずるなりと。

(総序結び)

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[釈勝榮/門徒推進委員]


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