平成アーカイブス


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【映画・書籍等の紹介、評論】

スター・ウォーズ エピソードV

― シスの復讐 ―

STAR WARS EPISODE U

REVENGE OF THE SITH


◆ 対立軸の違い

 最後に大きな花火を上げて終了したスター・ウォーズ3。映画の盛り上がりとしては、展開にもたつきのあった エピソード1エピソード2 を脱し、ここにきてようやくジョージ・ルーカスも調子が乗ってきたな、というところでシリーズが終了する。6作中では2番目の出来の良さ、というのが私の評価である。

 さて今回は細かい表現やシナリオについての論評は省き、映画と現実世界とのシンクロ率について語りたい。それというのも、スター・ウォーズ全体の流れと現実世界が微妙に重なりつつ捻れて時が刻まれていった、ということを言いたいのだ。

 スター・ウォーズの設定上の歴史はエピソード1から6へ進む。今回の3によって、ジョージ・ルーカス監督が旧シリーズを製作する時から既に新シリーズの大筋まで視野に入れていたことが分かり驚きを隠せないが、4から製作をはじめた理由は技術上の問題が大きかったと聞いている。しかしそれ以上に、映画製作時点における国際情勢の影響も大きかったのではないだろうか。

 思えば、旧シリーズにおける対立軸ははっきりしていた。皇帝とダースベイダー率いる帝国軍対反乱軍。現実世界でいえば全体主義対民主主義。これは帝国軍の服装がナチスの服装そっくりであることからも一目瞭然だが、映画製作時点(1977年から1983年)での対立軸は資本主義対共産主義(社会主義)だった。ここではルークもソロも帝国軍相手に無邪気なチャンバラ劇を演じることができ、大多数から拍手喝采を得ることも可能だった。

 ところが新シリーズが始まる1999年までにはこの対立軸はほぼ消滅し、代わりにグローバリズム対民族主義、もしくはキリスト教右派対イスラム教原理主義、といような表面的な対立軸が存在する一方、さらにもっと本質的でありながら深く厄介な対立軸が乱立し、見えざる脅威となって現在に至っているのだ。まさに「THE PHANTOM MENACE」というエピソード1のタイトル名通りの世界であろう。

 新シリーズは映画のテンポも重く切れ味が悪いのは、こうした先の見えない混乱期に製作されたことも影響しているのではないだろうか。さらにダース・ベイダーとなるアナキンの台詞は、そのまま過去のブッシュ米大統領の台詞と重ね合わせることが可能である。おそらく製作サイドでは、この帝国軍は圧倒的軍事力を無制限に行使したがる現在のアメリカ軍を想定しているのだろう。

◆ 神話世界から現実へ

 ただし、この一見権力批判的な態度が単なるポーズであることは観客は見抜かねばならない。現実世界をスパイスに入れつつ、このシリーズはあくまで神話的世界の構築であり、予定調和的空想世界の宣伝、という枠は外さないのだ。

 すると、現実世界は今どういう状態になっているのだろうか。スター・ウォーズのたとえで言えば、製作順にエピソード4、5、6、1、2、となって今回のエピソード3の後に世界が放り出されていることになる。しかもエピソード4には至らない路線、全く未知の地平に人類は歩み出しているのだ。そして現実にはそもそも神話的な甘い予言など通用せず、旧シリーズの反乱軍などのような英雄的レジスタンス部隊も存在しない。弱肉強食の動物的世界の中で、敵対する相手を屈服させることを信念に戦いを繰り返しているだけである。そして人知れず平和で豊かな世界を創造していこうと努力する活動は、煮えきらぬ態度の理想論者の戯事と指弾され、無視されて続けてゆく。

 しかし本当の英雄的活動は、平和世界の創造のために目立たない地味な活動を続けていく中にしかない。歴史に名を刻まずとも、勲章や派手なセレモニーなどなくても、荒れた土地を徐々に肥やすように、社会環境を耕し、人々の相互理解の環を徐々に広げてゆく努力が不可欠となる。

 ジョージ・ルーカス監督によるスター・ウォーズはひとまず終わった。エピソードZからは単なるコケオドシ映像の連続で全く評価できない。私たちはこの壮大な神話世界から抜け出し、頭を切り替え、いよいよ現実のウォーズと内面のウォーズに向き合っていかねばならない時が来た。フォースがともにあらんことを……(自家撞着)

公開:
2005年
脚本・監督・製作総指揮:
ジョージ・ルーカス
製作:
リック・マッカラム
撮影監督
デイビッド・タッターソルB.S.C
音楽:
ジョン・ウィリアムズ
出演:
ユアン・マクレガー、ナタリー・ポートマン、ヘイデン・クリステンセン、イアン・マクダーミド 他
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