平成アーカイブス <研修会の記録>
以前 他サイトに掲載していた内容です
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11月7日勉強会2 [講師:西光義敞先生]
これで一通り終わったわけですが、ご感想はありますか?
――普段の会話の中で、こういう風には聞いてなかったな、と思います。話を聞いても、自分の意見や感想を言いたくなります。相手の言葉に対する感想を言うだけで、相手の言葉を理解してそれを伝える、ということは余り今までしてなかった。単純だから、やればやれるんだろうけど、なぜかやらなかった。
――クライエント側の言われたことを100%フィードバックするというのは、とても難しいことだと思いました。話が長くなればなるほど、自分の中で関心が持てる接点を一つ持って、ついそこを中心に話してしまおうとする自分がいる。
――人の話を聞いた時、深く理解しようとするのではなく、自分の思ったことを口に出してしまいたくなる。聞いた時点で、すぐ反応して答えてしまいたい、という気持ちが抜けません。
――ボキャブラリーが豊富でないと、正確に言い直そうとしてもおうむ返しになってしまうな、というふうに感じました。
――正確に言い返す、でもおうむ返しでない、というのが難しい。
相当な先生でも、「おうむ返しをする」と仰ってる先生がいるんです。でも違うんでね、おうむ返しというのは、物理的に言うだけですが、本当は言っている人の心を汲んで感じとった理解を言うんですから、そこのところが大事ですね。
それで、短い話だったら話を返すのは簡単ですが、話が長く続いていくと、色々とこちらの思いが湧いてきて難しくなる、ということですが、ここでこつを思い出してほしいんです。話についていったらそうなるんですが、話を聞いているんではなくて、どんな気持ちかなー、こんな感じなんかなー、と。今のは10秒程度ですからすぐ終わりますが、これ、もう少し長くやりますと、段々困ってきます。<憶えんならん>と思ってしまう。憶えるというのは知的な作業でしょう。何を憶えるかというと、言った事柄をおぼえようと思うから、動いてるのは頭なんです。
だから、細かいとこは頭に入れないで、<どんな感じなんかな>と。そこのところだけはきちっと受け止める。極端に言ったら、長々話し終わるまで聞き切ったら、終わりの方で、どっかのところで「それで、しゃくにさわるんです」とか、何か本人自身が気持ちを表明する言葉が80%くらいの確立で出てくる。試験勉強のようにヤマかけるみたいに、それまでは話には付いて行かんゾと。そして本人自身の気持ちを表明する態度があったり、言葉があったら、それは聞き逃さんぞ、と思って聞く。
<憶えんならん>と思って聞くと緊張するんですよ。そうではなく、ゆったり構えて、家庭の事情を延々と言ってても、一々<どんな家庭かな>なんて思っていると、質問したくなってくる。細かなところはわかりませんよ、どうせ。ずっと聞いて、感情が出たら、「このごろ家の雰囲気がすっかり変ったなーって、そんな感じなんですか?」と言うと、「そうなんですよー」と。気持ちを受けてもらえると満足するんです。
その「そうなんですよ」と満足してもらえたらいい。これはむしろ簡単なことで、相手の言ったことを、ある意味おうむ返しになるかも知れませんが、相手の言った感じと同じ感じで、例えば、「そこんとこは、つらいんですー」と言われたら、「そこんところが、つらいんですねー」という風にやる方がぴったりくる。
頭の中で整理してると、知的なものになってしまいます。「なんか、すっきりしないんです」と言われたら、「すっきりしない感じなのかな」と、これの方が余程カウンセリングは深まっていきます。不思議なもので。
では場面を変えて、机があると堅い雰囲気を作ってしまうので、グループに分かれてやってみましょう。それで心を込めて聞く時は向かい合って聞きます。
距離や声の高さによって聞き方が違います。実際のカウンセリングでは、部屋にクライエントがどういう風に入って、どこにどういう風に座るのか、ということもちゃんと見てるんです。
遠慮がちに座る人もおれば、ずけずけ入ってくる人もおる訳です。それはそっくりそのまま、その人の気持ちの表明だから、「失礼やないか」とか言わず、じっと見てて、おじおじしてたら、<何かおじおじしてるんだな、今>と。
憤懣やるかたないように荒々しく入ってきたら、<気持ちが荒れているのかな>というふうに、ひとつひとつ、言葉にしなくても共感的に共感的に受け入れていくようにしてやっていく。全体が醸し出すところの理解がものすごく大事です。
また、クライエントに「声が小さい」とか、言い方にけちをつけたり注文をつけるのはカウンセラーらしくないですね。大きな声で言う人は、大きな声で言えるような何かがあるから大声を出します。小さい声で言ってるのは、小声で言う何かがある。ものの言い方、声の高さというのは、その人の今の気持ちを表明しています。
けれども、カウンセラー側の声がクライエントに届かないようでは、スタートから失格です。自分の言っている声はきちっとクライエントに届くように、しっかりした、その場に相応しい声の大きさ・高さでコミニュケートできないといかんと思います。クライエントの声も、小さくて聞けないようではいけませんから、「もう少し大きな声でお願いできますか」と頼むくらいは言って下さい。
ではグループに分かれて実習してみてください。
・・・(ロールプレイ内容は省略)・・・
やっていただいて、意味がありましたでしょうか?
――いちおう、聞く姿勢が出たかな。
――自分の主観を交えずに人の話を聞くというのは、やはり難しいな、と思いました。
これも、だいぶはっきり分かってきたんですが、主観を交えずに、というのも難しいものですね。こちらはこちらの感じ方がある訳ですから、<私にはこのように聞えた、このように理解したけれども、そういう聞き方・理解の仕方であなたの気持ちにぴったりしてましょうか?>という意味のフィードバック、ということが一番正確な表現です。
――感情をコントロールできそうな気もします、もしかすると。危ないことも。さっきも話してたんですが、気持ちを感じるようになったら、逆に相手の感情を操れるようなこともできてしまうような。
今のですか。自分の気持ちをありのままに受け入れてもらえるなー、という体験をクライエントがするならば、段々自分の気持ちを正直に見つめるようになってくるんじゃないでしょうか。
――相手を信じてしまうようなことになってしまいますね。相手を信じていて、その相手が誘導してきたら、それにつられてしまうことになってしまわないですか?
そこが非常にデリケートなところで、僕も気にしてたら、やっぱりそこを指摘する専門家がいました。「あなたは、そのままでいいんだよ」とか、カウンセラーが相手を受容してそういうことを言う、という話があるんですよ。
例えば、「つらいな、頑張らなくちゃ」と言うクライエントに、「頑張らなくても、あなたはそのままでいい。頑張らなくてもいいんだよ」と言うんで、「頑張らなくてもいいんだと思ってほっとした」というようなケースをよく聞くんですよ。ところが、これも問題があって、「頑張らなくてもいいんだよ」とか「頑張りなさい」というのも、こちらの価値観でしょ。僕は、それは受容でも共感でもない、と思います。
他人から「いやいや、無理しなくてもいいんだよ」とか、「あなたのままでいいんだよ」と言われるんじゃなくて、本人自身が<ああ、いらんところに力が入ってたな。もっと楽に生きたらいいんだ。ああ、そうか>と内面から気づくことが、その人の力になると思います。
それが、もしもカウンセラーが「あんたはそのままでいいんだよ」とか「無理しなくてもいいんだよ」と繰り返し言うのは、大事なところで間違っていると僕は思います。
人に対して、「いいんだ」とか言う権限はないでしょ、極端に言ったら。
それと、ひとつ思うのは、これは僕が年を取って難聴になって聞きづらくなっていることもあるんですが、皆さん若い人たちですから、そのくらいの声で喋って気持ちを伝えたつもり、聞いているつもりだろうけど、どういうわけか、若い人は何かに怯えているような、余りにもおじおじしています。
しっかりと自分の感情表明とか、意見主張する。強くしっかりと表明する。自分の言うことは、少なくとも相手の人に、「何? え? え?」と余計な苦労をさせることが要らない程度に、きちっと相手に届くように、こちらの言葉ははっきりものを言う。発言・伝達方法の気づきを深めてほしい。これはここだけではなく、しばしば感じることです。
そこで、こんなトレーニングがあります。目をつむっていて、順番に自己紹介してもらう訳。それで、聞きながら「あの人はこんな感じやな」ということをみんな聞いていて、終わったら全員が意見を出し合うわけです。そして、自分の声の出し方に関して気づきを深めていく。「つんつんつん、とくるような感じです」とか、「おっしゃってることがよく聞えない、弱々しい感じがする」とか、自分の発声の仕方を皆さんから聞かせてもらうことによって、色々な気づきがありますよ。
例えば自分がモノを言った時に、「必要以上に無理に声を出している感じで聞きよくない」と、もし言われたら、「俺はそんなことない」と言ってるより、「そういう感じを与えているのかな」と、受け入れるしかないでしょ。だから、そういうことも是非やっていくといいと思います。
これから色々な人と交流する時代ですからね。若い世代、年寄りの世代、それから外国人との交流、そういうところでは、消極的なコミュニケーションのやり方ではとてもやっていけません。だから、きちっと社会人として、責任ある理解と協力を、理性に基くフリー・ディスカッションで、自分も辛抱してないで意見をどんどん言う。そのかわり相手の言うことも尊重する、という言語的コミュニケーションが必要です。
ただ、カウンセリングの場合は、心の傷つきやすい人たちとのコミュニケーションですから、感情に焦点を当てて、<どんな感じなのかな>と、いうことの理解。微妙な違いをきっちり聞き分けて伝え返していくのが大事です。
以上
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