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【平成アーカイブ/研修会の記録】
平成14年度勉強会  

『家庭・家族』3−1

― 傾聴的態度を育む学習方法 ―

11月7日勉強会1 [講師:西光義敞先生]

 カウンセリングの必要・充分条件

カウンセリングの必要・充分条件

「パーソナリティー変化の必要にして十分な条件」というのは、つぎのようなものです。

 建設的なパーソナリティ変化が起こるためには、つぎのような条件が存在し、それがかなりの期間継続することが必要である。

  1. 二人の人間が、心理的な接触をもっていること。
  2. 第一の人――この人をクライエントと名づける――は、不一致の状態にあり、傷つきやすい、あるいは不安の状態にあること。
  3. 第二の人――この人をセラピストと呼ぶ――は、この関係の中で、一致しており、統合されていること。
  4. セラピストは、クライエントにたいして、無条件の肯定的配慮を経験していること。
  5. セラピストは、クライエントの内部的照合枠について共感的理解を経験しており、そしてこの経験をクライエントに伝達するよう努めていること。
  6. セラピストの共感的理解と無条件の肯定的配慮を、クライエントに伝達するということが、最低限に達成されること。

 他のいかなる条件も必要ではない。もしこれらの六つの条件が存在し、それがある期間継続するならば、それで十分である。建設的なパーソナリティー変化の過程が、そこにあらわれるであろう。

 この資料、「カウンセリングの必要・充分条件」に出ていることが、カウンセリングの全てといってもいいでしょう。他に条件は要りません。むしろ入れない方がいい、というのが現代のカウンセリング理論の創始者カール・R・ロジャーズ(Carl R. Rogers)さんの考え方です。

 3.の一致というのは、図の左にあるような状態で、経験過程、つまり「いま経験しつつあること」をきちんと意識し、気づいて、それを表現する。他人にその通りを伝達することができる状態です。相談を受ける側・セラピストには、このような一致・統合が求められます。

一致と不一致の状態

 しかし2.は、これができない状態、不一致の状態です。図の右側にあるように、経験しつつあることを、きちんと意識できない。抑圧を受け、歪曲されてしまっています。また、これを相手に伝達する段階で、虚偽や見せかけでまた不一致になる。こうした人をクライエントと名づける訳です。

 セラピストは、不一致の状態のクライエントに対して、会話によるカウンセリングをすることによって一致の状態に近づけていく訳です。精神科医は薬を使ったりすることができますが、セラピストとかカウンセラーという人は薬は使えません。現代は色々勝れた薬が開発されてきましたが、これは処方できません。会話によるカウンセリングだけです。それでも、充分なカウンセラー技術を身につけた人になりますと、クライエントにかなりの建設的パーソナリティ変化を見ることができます。

 人間というのは、<話さずにはおれない気持ち>があると、それをポロっと出す。例えば、「それで、困ってるんや」とか。そうした、今の気持ち・感情を表明するような言動がみえたら、そこのところは、がっちりとつかむ。そして、「どうしても納得できないな、というイライラした気持ちがなさるんですね」とか、そういうところを短い言葉できちっと押さえる。気持ちを聞いて、気持ちを理解するコミュニケーションなんです。

 気持ちを聞いてもらえた、分かってもらえたら、人間の心はすっと動くんですね。「ええそうなんですよ。誰かてそうなんとちがいますか」と言って、話が次の段階に進んでいく。その途中の話も取らんと、ずっと聴いてて、カウンセラーは、「こういうことは自分だけじゃない、誰でも腹立つこととちがうかなー、と、そんな感じ、なさってるんですね」というふうな調子で言うわけですよ。
 そうしたら、表明した感じが全部批判されずに受け入れられますから、人間というのは生き生きしてくるんですよ。<この人、よく聴いてくれるな、分かってくれるな。この人だったら、もっと深いところを話しても、受けとめてくれるのかなー>となって、「いや実はね、この間もこんなことがあったんですよ」と、また別の話につながっていく。
 その時も、「話をあちこち飛ばしたら分からんじゃないですか」などと言わず、「話してる間に、別の腹が立つ話を思い出されたんですね」と、その時その時の話を受け止めていく。そういうプロセスだと、40分50分じきに立ちます。で、時間がきたら、「お約束の時間ですから、これで終わりたいと思いますが、よろしかったら、こんな感じの話し合いでよければ、またいつか聞かせてもらってもいいですが」と言うと、「来週お願いします」というふうに続いていく。大体、これが基本的パターンです。

 過去ではなく今の気持ちを語る

 そういうふうな感じでロールプレイを、どなたかやってみませんか? ロールプレイは、「今ここ」ということが大事ですから、今ここでどんな感じがわいてくるのか、そのわいてきたところを、外から強制されて言語化するんではなくて、心の中に感じた人が、感じたときに、感じたままに表現する、という、これ、自己一致のトレーニングになります。
 私が言葉で説明するのはこれだけなんですが、後はそれぞれが体験してみて下さい。すごく大切な人間関係の持ち方ですから。

――フリートークですね。

 そうです。一対一の場合もクライエントは何かを感じているのですが、こういう人数の時もこの場の雰囲気があり、何かを感じるわけですから、感じたことをすぐ気づいて、すっと言葉にしてみる、ということです。

・・・(ロールプレイ内容は省略)・・・

 今、発言してもらいましたが、法事の場面というのは過去ですね。法事という言葉では一致しているようですが、あなたが「法事の場面では」というのは、関心が過去にあります。その法事という言葉が刺激になって、他の人も過去に関心がいってしまいました。こういう話し合いはどれだけ続けても、心の通い合いにはなりません。だから、<今こういう場面で言いたくなっている自分の気持ちはどうなのかな>というところを気づいて、言語化してもらえないかなー。

――今の感情を話すんですね。

 そうそう、今。

――今の悩みを話すんですか?

 悩み、というと「私には悩みはありません」となってしまいますが、今、心の中でどんな気持ちが動いて、どんな感じがするのか、ということを言葉にする。
 例えば、沈黙が続くとするでしょ。沈黙というのは、けっこう人間の心を動かすものです。<しんどいな>とか、<時間がもったいない>とか、<この沈黙いいなー、今日は一日楽しかったから、この沈黙を味わおう>という人も居ます。全部違うわけでしょ。それをひとつにまとめることが無理なんです。その時に、率直に「沈黙がしんどい感じがします」と。だから一つの言い方としては、「私はこんな感じがしています」という表現の仕方をしながら、時間を持ってもらったら、要領・こつというのがつかめます。これは一対一の場面と原理は同じなんです。

――あらためて、そう言われると、中々言葉が出てきませんが・・・

 あらためて、そう言われると、中々どうしていいか分からない、という感じでしょうか。

――そうですね。

 例えば、私が今言ったようなことは、何も「いい」とか「悪い」とは言ってないですね。「あらためてそう言われると」と言われたから、それをこんな気持ちでしょうか、と、この自分の受け止めた気持ちを、きっちりきっちり返す。あなたの言う気持ちは、おろそかにしていませんよ、という態度表明になるんですね。

 話し合いの基本ルール


 そこへ焦点を絞ってやるトレーニングの方法もあるんです。方法ばかり言ってますが、資料にあります積極的傾聴法です。

 これは僕がカウンセリングマインドを身につけるための基礎中の基礎やと思っているんです。

積極的傾聴法(Active Listening)

話し合いの基本ルール

A よく聴く(傾聴の段階)

  1. 相手の発言を最後まで聴く。
  2. 相手の発言を、こちらの見方や考え方によって批判したり、評価したり、賞讃したり、非難したりしてしまわないように、十分気をつける。
  3. 感情的な意味のある発言には特に注意し、相手の人の内部にある枠組みを通して、共感的に聞くようにする。
B 正しくいい直す(フィードバックの段階)
  1. 相手の発言が終わると、まず相手の考え方や感情を正確にいい直してみる。つまり、こちらが理解したところを言葉にして、相手にかえしてみる。(このとき先の発言者は傾聴する)
  2. 正確にいい直すということは、かならずしも言葉どおりおうむ返しにするということではなく、相手の言おうとした気持ちや意図の核心を明確化することを意味する。また「よくわかりました」だけでは、どうわかったおかが示されていないので不十分である。「私もそう思います」というのもよくない。こちらの賛成・不賛成を言うのでなく、相手の言ったことをどう聴いたのかを伝える、評価でなく理解を伝えるのである。
  3. 正しく理解されたという、発言者の満足がえられたら、はじめて、自分の発言が許される。
C 率直に発言する(発言の段階)

 聞き役・カウンセラーの立場になる人は、相手が話し出したらよく聴く。Aの傾聴の段階ですね。
『1. 相手の発言を最後まで聴く』。話を途中で取らない、ということです。これ我々はすぐやってしまいます。
『2. 相手の発言を、こちらの見方や考え方によって批判したり、評価したり、賞讃したり、非難したりしてしまわないように、十分気をつける』というのは、相手は相手の気持ちを言葉にしてるわけですから、相手のありのままを大事にすることが大事ですから、相手の発言・おっしゃることと、こちらの見方や考え方と違っていても、「それはないでしょう」とか、「止めた方がいいですよ」とか、批判したり、評価したり、ほめたり、そしったり、そういうことをしないように、トレーニングの段階では、特にそこのところを注意して、とにかくこっちの価値観を交えないで、とにかくしまいまで聴く。

――賞讃してもよくないんですか?

 いけない。なぜかというと、褒める・そしるというのは、こちらの価値観があるからでしょ。人間というのは価値観なしに生きていけません。一人一人価値観が違うわけです。
 好き嫌いの問題もありますが、聴いていくと、「せっかくやりかけた仕事を半分で止めるのは勿体ないから続けなさい」と、何とかかんとか言ってあげたくなるんですが、できるだけ、少なくともおさえる。褒めるというのは、「あなたええ事言うね」、「私が思っている通りのことを、あなたはやろうとしているんですね」と言ってる訳ですから、私の価値観と相手の価値観が同じにされていることになります。私が賛成であろうと反対であろうと、それは私の価値観。あなた自身の立場に立ってみたら、「そう思うのかなー」、「そんな感じがするのかなー」って、そのまま受け止めてみる優しさ、というか柔らかさみたいなものが必要です。

『3. 感情的な意味のある発言には特に注意し、相手の人の内部にある枠組みを通して、共感的に聞くようにする』。ずっと最後まで聞く、と。それが終わったら、今度は、カウンセラーの方が言う番ですけど、自分の意見を言うのでなくて、今、相手の気持ちを聞いた、聴いて受け止めて、<こういうことをおっしゃりたいのかな、こんな感じなのかな>ということを、できるだけ正確に言い直して相手に伝え返す、というのがBの『フィードバックの段階』なんです。

『1. 相手の発言が終わると、まず相手の考え方や感情を正確にいい直してみる。つまり、こちらが理解したところを言葉にして、相手にかえしてみる。(このとき先の発言者は傾聴する)』この時には、先ほど発言した人が聞き役になっているわけです。
『2. 正確にいい直すということは、かならずしも言葉どおりおうむ返しにするということではなく、相手の言おうとした気持ちや意図の核心を明確化することを意味する』、つまり気持ちです、事柄ではありません。
『また「よくわかりました」だけでは、どうわかったおかが示されていないので不十分である。「私もそう思います」というのもよくない』これも共感のようで共感ではありません。「あなたの価値観と私の価値観とは今のところ共通になりましたね」と言ってるだけです。
『こちらの賛成・不賛成を言うのでなく、相手の言ったことをどう聴いたのかを伝える、評価でなく理解を伝えるのである』。相手を褒めたり、賛成したりするのでなくて、「こちらはこのように聞きました、理解したけれども、そういう理解の仕方であなたの気持ちを正しく受け止めたことになってるかしら」という意味の問い返しなんです。
 これがぴっしりといったら、次に『3. 正しく理解されたという、発言者の満足がえられたら、はじめて、自分の発言が許される』、つまり「私はこう思います」と、自分の意見を言って話しが続いていくわけですが、2.のところまででストップして、積極的傾聴法の練習をしたらどうでしょう。

 これも基礎のトレーニングの方法ですから、やってみましょうか。これは易しいようで難しいんです。では、せいぜい10秒くらいで、今の気持ちを相手に伝えていくのを順にやっていきましょう。
「今のところ、面白いな、という感じがしてます」とか「正直言って西光の説明はくどいなー、この人の癖なか、と思いながら聞いてます」とか、感じたままを、話して、隣の人が聞き役になって下さい。
 聴いたら、「私もそう思います」では賛成しているのでダメです。そうじゃなくて、「あなたは今のお気持ちは、西光のものの言い方はちょっとくどいな、退屈やな、という感じがなさっているんですね」と、こういうふうに返してもらうわけです。そうすると、自分の言った気持ちが、聴いてくれる人にどういう風に受け止められているか、というのがすぐ分かるわけです。

 それがぴしゃっと言ったら、<ああ、よう聴いてもらえたなー、ちゃんと聴いてもらえたなー>という満足感が起こるわけです。ところが、批判とか、ほめるとか、腐すとか、そんなことばかり言われたら、<ちょっとそういうこと言う前に自分の気持ちをもうちょっと聞いてほしい>という願望が出ます。満足できなかったら、NOと首を振ったらいい。そうしたら、聴き方が悪かったから、仕切りなおし、またやり直しです。「満足しました」と言ったら、あなたの聴き方はよかった、ということですね。共感的な聞き方ができた、ということです。そういうミクロな練習を丹念にやっていくと、段々と相手の話を受け止めて理解する感覚が身に着いてきます。

 グループで行なう

 それで、「ペアを組んでやって下さい」と言うと、2人でやってると、やってることが上手くいってるのか、それも分からない、だからもう1人入れて3人グループ作って練習する方法が「三人一組によるカウンセリング実習のやり方」です。

三人一組によるカウンセリング実習のやり方

 AさんBさんCさんとするでしょ。1回目はBさんが話し手、Cさんが聞き手になって、今みたいにやるんですよ。それをAさんが横で観察している。それで終わったら、3人で問題がなかったか、ということを話し合ってもらいます。その時にも、率直に皆が感じたままを話し、聞き合うということになると、自己一致的な対応をするトレーニングをしていることに図らずもなるんです。
 それが終わったら、今度はCとAのペアで移しながらやって、3回やったら、1回は聞き役、1回は話役、1回は観察役となり、何度も繰り返しているうちに、感度が良くなってきます。これ、4人になってもいいんですよ。4人でよければ5人でもいいわけでしょ。それで一回全体でやってみましょう、ということになると、ここでやったらいい。これがいいかな。

<今、説明を聞いたけど、気持ちが動かない>という人はいます? そういう人は、遠慮なく「パスします」と言って下さい。<やりたくない>という気持ちが動いてるのに、全体が動いているから自分の気持ちを大事にしないで皆についていく、ということはカウンセリング的ではない。だから<皆がやる気になってるみたいだけど、私はどうも気が進まない>という時は、<気が進まない><やる気がしない>という方を大事にしてほしいんですよ。
 ホントは「私はやる気がしない」ということを話してもらったらいいんやけどね。色々な場面で「何か知らないけどついていけない」とか「嫌な感じがする」というのが、ものすごく大事なんです。それは日常ではほとんど押し殺しながら生きてますからね。だから、ここでの練習では、今ここでの気持ちを大事にしてほしいと思います。パスする、というのは大事です。

 私も聞かせてもらって、気持ちがわくと思うんですが、一通りやるまではコメントしないようにします。コメントされると、またそこで上手やとか下手やとか気持ちになりますから、とにかく体験してもらう。全部終わったら、皆が平等ですから、皆が感じたことを話し合う、ということになると、密度の高い体験学習になると思います。

――やる気はあるんですが、どういうふうになりますか。それでは話をしたがっていそうなAさんからOさんに。Oさんは、普段気持ちを押し殺してそうですが・・・(笑)

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平成14年度 名古屋西別院仏青勉強会 年間テーマ:『家庭・家族』


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