1969年に発表されたブライアン・オールディスの短編小説『スーパートイズ/いつまでもつづく夏』の映画化。監督はスティーブン・スピルバーグであるが、その奥に故スタンリー・キューブリックの未完成の脚本イメージがぷんぷん漂う。二人の監督の視線を同時に堪能できる、という意味では二倍美味しいが、結末はちょっと<語りすぎ>かも知れない。
年代ははっきりしないが、近未来、温暖化の影響で世界中の都市が水没し、人口の増加に伴う食糧問題は深刻さを増していた、という設定である。対策として食料を必要としないロボットが人間の生活を支えているのだが、逆にそれによって仕事を奪われた者たちの反発も激しく、反ロボットのイベントが日々開かれていた。
そんな折、サイバトロニクス・ニュー・ジャージー社は《愛をインプットできるロボット》を開発し、社員のヘンリイ・スウィントンに試験的に貸し出すことにした。彼の息子は難病で冷凍保存されているが中々治療法が発見されず、妻のモニカは精神的に追い詰められていたのだ。
新型のロボット少年《デイビッド》が実の息子にそっくりなので、最初はとまどっていたモニカだが、次第に彼の存在を受け入れ、<愛>を吹き込み、息子の使っていた玩具ロボット《テディ》をデイビッドに与える。だが1カ月後、実の息子マーティンが回復して退院したため、デイビッドは微妙な立場に立たされる。その上愛は嫉妬を呼び、<人間になって愛されたい>という夢を抱く。そのため人間の真似をしてほうれん草を食べたり、モニカの髪を切って願いを叶えようとしたりする。ロボットの愛に危険を感じたモニカは、デイビッドとの別れを決意、しかしサイバトロニクス社に持ち込めば廃棄されるため、森の中にテディーとともに置き去りにする。
まるで捨て犬のような存在になってしまったデイビッドは、森で廃棄されたロボットたちに出会う。途端に月(気球)が昇り、3台のバイクが出現して人間のロボット狩りが始まる。逃げる途中で《ジゴロ・ジョー》というロボットに出あうが、二人(二体)は捕まってしまう。
[フレッシュ・フェア=肉体の祭]で次々処刑されてゆくロボットたち。遂にデイビッドとジゴロ・ジョーの番が来た。しかし命乞いをする少年を見た観客たちは騒ぎ出し、主催者は石を投げつけられ、間一髪二人は逃げ延びる。
散々な目にあったデイヴィッドだが、あくまでモニカを愛することをやめない。いつか寝物語に聞いた『ピノキオの冒険』では、《青の妖精》がピノキオを人間に変える。そのことを思い出し、情報端末《ドクター・ノウ》に居場所を尋ねると「マンハッタンに行け」と指示される。二人は警察のヘリコプターを奪い飛び立ってゆく。
マンハッタンの高層ビル群もこの時代はほとんど水没している。サイバトロニクス社に着いたデイヴィッドはホビイ博士に会うが、自分と同じ型のロボットが並んでいてショックを受ける。さらにジゴロ・ジョーも警察に捕まってしまった。それでもデイヴィッドは潜水艇に乗り込みコニイ・アイランドへ急ぐ。海底で見たのは、ホットドッグの早食い競争、ではなくピノキオの物語の人形群で、そこでやっと見出した《青の妖精像》。その優しい眼差しに向ってデイヴィッドは時を忘れて願い続ける。
それから、2000年の時が過ぎて・・・
この大作映画の公開を2001年に間に合わせたことからも分るように、『A.I.』のテーマは 『2001年宇宙の旅』 と同様、人間と人工知能の対決(もしくは共存)で成り立っている。そして<ボウマン VS HAL9000>では人間が勝利するが、今回の勝利者はどちらかというと人工知能である。
おそらくスタンリー・キューブリックは、<人間と人工知能のどちらが勝利するか>、という命題に対して、最初から結果を定めていたのではなく、<どういう場合に人間が勝ち、どういう条件が整えば人工知能が勝つのか>ということに興味があったのだろう。そして今回の映画でその条件が<愛である>という解答が出されたのではないか。<愛は嫉妬や苦しみを生み、一時的にを人を弱くするが、実は本当の強さを与える>といったところだろうか。
少しあっけない答えであるし、<愛>だけを特別の感情と見る視点には反論もあるが、愛を捨てた人間と愛を一途に信じたロボットが対比して描かれているから、結末はごく常識的な迎え方ということになる。もちろんこの常識は「おとぎばなし」としての常識で、現実の常識とは異なるものだ。この点はスピルバーグ流であり、おそらくキューブリックだったらもっと複雑で一見しただけでは分らない様に謎めいた映像にしただろう。
ただし、音楽の使い方といい、まずそうなほうれん草といい、無味乾燥な住宅といい、今までのスピルバーグにはない寒々とした映像はキーブリックを尊敬する現れといえるし、観客へのサービスとしても充分見ごたえがある。そして難しいテーマを、マイノリティーの悲哀を通して描き、情感に訴える豊かなストーリーに仕上げている。