平成アーカイブス  <旧コラムや本・映画の感想など>

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【映画・書籍等の紹介、評論】

『2001年宇宙の旅』についての新たな考察

― シネラマの終焉とエヴァンゲリオンとの共通性 ―


新たな出会いが新たな展開を呼ぶ

 前回【映画・書籍等の紹介、評論】で、2001年宇宙の旅 を「SF映画の最高傑作」として称え、また「様々な解釈が可能」ということで話は終ったはずであった。しかし実際この年になって映画に対する解釈を大きく変えてしまう新たな出会いがあった。
「これは書かねばなるまい」
ということで、前回に引き続き、この映画の考察に皆様をお付き合いさせることになってしまった。

◆ シネラマの終焉

 2001年1月2日、若くして環浄した弟の友人(宇宙物理学者でとある世界トップクラスのプロジェクトチームで活躍中)が寺に訪ねてきてくれ、オーストラリアの親戚の子ども達とも話が盛り上がって、最後赤ワインと渋い緑茶でしばらくちびちび話していた時のこと。
『2001年宇宙の旅』について話題が移る――

O.Makoto: 実は先日、名古屋駅前の映画館で『2001年宇宙の旅』をやる、ということを新聞の映画情報で知って、もう喜び勇んで出かけたんですよ。ところがこれはパロディー版。がっかりして帰ってきたんです。もう「紛らわしいのをやるな!」って言いたいな。

I.Yoshitaka: そりゃ災難でした。

O.M: その時の帰り、茫然自失状態で名古屋の地下街をぶらぶら歩いていたんだけど、いつの間にか、やたらさびれた場所に出てね。それはまるでうちらの心象風景でしたが。その一角にアジアの食材を売る店があって。実はこれ、その店で買ってきた韓国製の「かっぱえびせん」ですが、食べます?

I.Y: ああ、それじゃあちょっと試しに……ところで、その『2001年』ですが、これはシネラマ方式の映画なんです。でも日本でこのシネラマの映画を上映できる映画館は、現在は一軒もないんです。

O.M: シネラマ方式というと、横に細長ーいやつ?

I.Y: そうです。しかもスクリーンは布じゃなくて、縦に細長い板を並べて湾曲させて観客を包み込んでいるんです。このシネラマスクリーンを採用した日本で最後の映画館が名古屋市科学館の隣の『中日シネラマ劇場』だったんですが、これが一昨年閉鎖になってしまったんです。
【編集者注:1999年9月24日 ヘラルドシネプラザ1 閉鎖】

O.M: ああ、「スター・ウォーズ エピソードT」を見に行った時、普通のスクリーンじゃないから不思議に思ったけど、あれがそうだったんだ。

I.Y: この映画館が取り壊されると聞いて、ファンはもう必死に反対運動をしたんだけど、結局観客が少なくて経営が成りたたないし、シネラマ方式の映画自体が製作されなくなっちゃたから仕方ないけど。でもその後、ディスコ(クラブ)になっちゃったんですよ。何もシネラマ潰してディスコはないでしょ。

O.M: 最後は確か『エリザベス』だったっけ。でもあれはビスタサイズだよね。ビデオの影響かな。

I.Y: シネラマは映画全盛期の方式なんでしょう。だから取り壊した後、シネラマ映画ファンに板を配ったらしいけど、惜しいですよね。

O.M: じゃあ、『2001年宇宙の旅』は上映できない?

I.Y: 完全版は日本では見られません。左右を切るか、上下をビスタサイズで小さく焼きなおすか。もしくはシネラマ映画館を作るかですが、これはもう現実的には有り得ません。

O.M: 一度でいいから完全版を映画館で見たかった。

I.Y: 実は私は、この『2001年』をその映画館で見たことがあるんですねぇ。勿論リバイバルですが。

O.M: え! その時なんで私を呼んでくれんかったんだー

I.Y: いや、将来こんなことになるとは知らなくて。で、前から11列目で見たんです。これはもう完全に宇宙に飛んでましたよ。スターゲイトに入った時の映像もホント凄かった。別世界でした。

O.M: うわー! 絶対見たかったー。やっぱシネラマがいいですーー。めっちゃクヤシイーー

◆ テーマなど無い

I.Y: ところでこの「かっぱえびせん」、全然味が違いますよ。辛いというかスパイシーというか・・・うわー舌がしびれる〜〜〜〜これはすぐに「やめられます。とまります」。

O.M: はっはっはっ、ぴったりのコピー。でも袋のデザインは日本のと一緒だけど。

I.Y: これはバッタモンでしょう。本家が知ったら訴えられますよ。

O.M: それはそうと、映画の謎について、色々解釈が出てて、最初は自分の考えだけで書いたけど、他のサイトを調べたら本当に色々な解釈があるから頭が飽和状態になってきて、最後は力技でまとめました。

I.Y: この映画は考えて観てはいけませんよ。監督は映像だけに集中しているんです。テーマとか解釈は後で取って付けたものです。一応原作はありますが、監督はとにかく徹底的に凝った映像を撮りたかっただけなんです。「まず映像ありき」で、特に宇宙船がステーションと回転をシンクロさせて進入するシーンなんて凄いでしょ。このカットに対する監督の熱の入れようは半端じゃないですよ。

O.M: 確かにスタートレックみたいに転送されたんじゃ、見せ場はないわな。

I.Y: 監督はあの見せ場を撮りたかっただけなんです。意味を考えるのは観客の悪い癖です。

O.M: じゃあ、あの3つのモノリスは? コンピューターと人間の闘いは? スターゲイトは? 宇宙の誕生は? 突然の部屋は? ワイングラスを割るシーンは? スターチャイルドは?

I.Y: 何の意味もありません。ただ宇宙空間の映像にとことん情熱を傾けて撮って、監督はもうそれで満足してるけど、それだけじゃ映画にならないから、監督得意の密室サスペンス・シーンの宇宙版を入れてやろうと、ついでに「トリップ映像も入れとくか」と、それから「意味ありげな部屋も置いておこうかな」と、そうして撮りたいイメージを全部撮ってつなげただけです。それで監督は「色々な解釈をする奴が出てくるだろうなー」とも予想してたんじゃないかな。だけど、そんなことはキューブリックは知ったことじゃない。

O.M: じゃあ、最初からテーマなんて無かったの? わー、キューちゃんにしてやられたのか。

I.Y: 少なくとも監督はテーマには全く関心はいってません。でなけりゃ、あんな映像は撮れませんよ。これは映画館の大画面で見ると納得できるんです。

O.M: やっぱシネラマがいいですーー。めっちゃクヤシイーー(くどい)。そうすると『2010年』はテーマが最初にあったから、それで失敗したわけだ。あれだけ台詞があるということは、言葉や解釈が先走ってるもんね。そうすると『2010年』は『2001年』のバッタモンってわけだ。

I.Y: ただのSFストーリー映画になっちゃってる。

◆ エヴァンゲリオンとの共通性

O.M: 待てよ。そうすると、これは『新世紀エヴァンゲリオン』と一緒じゃないか。思わせぶりな映像をどんどん詰め込んでいるけど、作り手は最初から統一したテーマなど持っていない。ところが映像が徹底的に凝っているから、見る方は「絶対何か意味があるはずだ」と勘ぐってしまう。

I.Y: だから話が終っても観客は混乱してて、それで「何だ、何だ?」と話題が広がっていって、名作ってことになちゃう。解釈が先行すると秀作にはなるけど、名作にはなりません。

O.M: 意味がきちんと収まっていると、観客は見終わったら日常生活に戻ってこれるもんね。『2001年』や『エヴァ』は戻って来れない。

I.Y: そこなんですよ。

O.M: ある意味「詩的」なんだな。

I.Y: で、決着はつけない。つける必要なんてさらさら無い。映像さえ撮れれば満足してる。映画監督というのは、そういう感性がなければつとまらないんじゃないかな。

O.M: そうか。でもそれが分かれば、私もようやく日常生活に戻れそうだ・・・ん? あれを見ろ! ハルだ。HALが見ているゾ! 二人の会話は読み取られたに違いない。こ、殺されるーーー

I.Y: あのー、それは警報装置の赤ランプなんですけど。ちょっとワイン飲み過ぎじゃないですか?

O.M: ええい、紛らわしい。俺を日常に戻さないつもりだな。よし、こうなったらわがサイトも、思わせぶりな文章を掲載して、みんなを日常に戻さないぞ。

I.Y: どうぞご勝手に。でもその前に、このしびれた舌を日常に戻してほしいんですけど・・・

とりあえず 以上

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