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平成アーカイブス


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【特集・コラム・資料】

多くの職人の手を経て造られる塗仏壇

仏壇造りの苦労

◎仏壇の歴史は古い

 仏壇(在家仏壇)の起源をひもとくと、『日本書紀』に「詔したまわく、諸国に、家毎に、仏舎を造りて、すなわち仏像及び経を置きて、礼拝せよ」と記述されている。

 現在の仏壇に近い物が出まわりはじめたのは、江戸時代くらいである。

 仏壇は『塗仏壇』と『唐木仏壇』に大きくわけられる。塗仏壇は、桧・杉・欅などの木地の上に漆塗りし、箔押し仕上げした仏壇である。唐木仏壇は、紫檀・黒檀・鉄刀木・桜などを材料として仕上げてある。

◎八職人の手を経て

 塗仏壇には、最低八人の職人が必要とされる。 箱の部分を造る木地師

:仏壇の箱の部分を造る木地師

[完成品を長期間置くと、箔や漆の色が変色してしまうため、このまま注文を受けるまで寝かせておく]


宮殿を造る宮殿師 :仏壇の中央に置かれている宮殿を造る宮殿師

[多くのパーツが複雑に組み合わされている。一見やわに見えるが、多少の衝撃ではびくともしない。漆を塗る前の段階なので、泥を塗ってある]


彫り物を造る彫刻師 :欄間などの彫り物を造る彫刻師

[竜の模様は本願寺派の特徴。丁寧な細工が施されている。この上に箔を押す]
研いだり磨いたりして光沢を出す呂色師

:戸板(仏壇の扉)などの所を研いだり磨いたりして光沢を出す呂色師

[写真は生地の戸板。実は戸板の部分は、見た目以上に手間がかかる]
金具を造る錺金具師

:名古屋仏壇の特徴ともいえる金具を造る錺金具師

[金具を打ち付けている段階]

(錺金具師は仏壇の外側の外金具を造る職人と内金物を造る職人に大きくわかれる)
金箔を押す箔押し職人

:うるしの上に金箔を押す箔押し職人

[薄い箔を手際よく押してゆく]

 その他、:漆を塗る塗職人、:仏壇の蒔絵を描く蒔絵師が仏壇造りに携わり、以上の八職といわれる職人の手をへて一つの仏壇が出来上がる。

[大矢章博]


◆手造りと機械造りの違い

 実は、これら八職人の手を経て丁寧に造られる仏壇は、最近は減少傾向にあります。代わりに現れたのが、プラスチックや機械造りの仏壇で、勿論安く購入できますが、問題なのは、購入時にちゃんと「プラスチックです」とか、「機械造りです」等の説明を受けているかどうかです。

 どの仏壇も、何十年かたつと汚れたり傷んだりしてきます。この時、高価な手造り仏壇は「洗い直し」・「御洗濯」と呼ばれる修繕でほとんど新品同様になりますが、プラスチックの仏壇は修繕はききません。
 手造り仏壇の修繕というのは、塗りを落とし、分解し、傷んだ部品を取り換えて、組み上げて、塗りなおすという、新品を造るのとほとんど変わらない工程を経ます。この工賃とプラスチック仏壇の新品の価格は、ほぼ同じ位といったところでしょうか。

 誠意ある仏壇屋さんは、そうした説明をきちんとしてくれます。客としても、しっかり説明を聞く姿勢が大切で、その上で納得して購入していただきたいと思います。

 ランニングコストはほぼ同じであるとして、プラスチック仏壇は購入時は確かに安いですが、修繕時期に毎回買い替えなくてはならず、永きにわたって礼拝してきた思い入れのような気持ちも考えれば、修繕で半永久的に礼拝することが出来る手造り仏壇の良さは、立派で高価な事だけではない、ということが分かります。
 仏壇店ではここまでは言わないでしょうが、資源の使い方という点で、環境問題まで視野に入れれば、最初の購入時の価格差(決して小さくはないが)を度外視する事も有意義な事でしょう。

 ところが、店によっては、よく説明せず、利益率の良いものを、選択の余地がないような言い方で売り込む所もあります。こういう場合は、他の店に行った方がいいでしょう。

◎簡単な見分け方

 ただ、説明を受ける前でも、簡単に見分ける方法があります。例えば写真4の戸板の部分ですが、ここは手間がかかる部分のため、プラスチックや機械造りのものがかなりあります。
 手造りの仏壇は、戸板を組んでから(ちょうど写真の状態)、にかわを塗って、その上に金箔を押します。そのため桟どうしがしっかりとかみ合い、頑丈になるのです。見た目としては、桟の継ぎ目が押した箔に隠れて見えなくなっています。ここに継ぎ目が残っているものは、あらかじめ金泥ラッカーを吹き付けた板を組み合わせただけなので、ちょっとした衝撃で桟が欠けてしまいます。

 箔のしわは、桟以外にも見受けられますので、チェックしてみて下さい。ちなみに機械で造った場合には、箔のしわ跡は無く、全体的に鏡のように滑らかです。

 また漆の種類にもよりますが、自然の漆のみを幾重にも塗った仏壇は、塗りの跡が微妙に残っていて、落ち着いた色をしています。比べて、合成漆やラッカーなどの吹き付けで造ったものは、表面が滑らかでむしろつやは多く出ています。

◎値段の問題ではなく

 つまり全体的に、ぴかぴかと輝いているような仏壇は機械造りで、手造りの仏壇はつやも落ち着いています。ただ新品の印象が強い方が客の受けがいいですから、残念ながら手造りの仏壇は、最近なかなか売れないのです。

 仏壇の製造技術は大切な伝統文化と言えるでしょう。ところが、手間暇かけた仏壇が売れないと、折角の技術も生かされないことになります。実際、一流の職人に回す仕事が減ってきていると聞きました。
「値段の高い仏壇がいい」と、言っているのではありません。仏壇造りには大変な手間がかかるのに、そのことが考慮されず売り買いが行われている事が問題なのです。

 もちろんこの不況のさ中ですから、金銭的に余裕のない人も多いでしょう。また、単身でアパート住まいをしている場合など、購入すればいずれ仏壇が重なってしまうことになります。
 そういう場合は、絵像(仏画)や名号(南無阿弥陀仏)の掛け軸を壁などに掛けたり、三折御本尊をしかるべき場所に安置されればいいでしょう。特に三折御本尊は携帯できますので、旅行中も宿泊先等で礼拝できます。

 仏壇は人々が毎日拝むことによって、そこに浄土のはたらきを思い起こしてくれるのです。そして仏像もまた、拝ませて頂くことで単なる絵や彫刻ではなく、仏として写ります。「形にとらわれるな」といっても、形がないと心が動かない私達です。
 仏様の御苦労とともに、仏壇を造っていただいた人々の苦労もしのび、せめて精一杯の荘厳を心がけましょう。

参照:仏壇の荘厳(飾り方)

[Shinsui]

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