平成アーカイブス  【仏教Q&A】

以前 他サイトでお答えしていた内容をここに再掲載します
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【仏教QandA】

寺院における女性の立場

僧侶の妻としての立場を教義として確立

質問:

 日蓮宗では‘寺庭婦人‘という言葉があると聞きました。それはお寺の奥さんを指す言葉と聞きとてもびっくりし不愉快になりました。寺の庭を掃除するのは奥さんの仕事と決め付けられているような意味に感じます。今の世の中は女性の社会進出が当たり前の時代なのに寺の社会では奥さんは家庭にいるのが当たり前というとても古臭い考え方が以前存在しているということをアピールしているように感じます。又寺庭婦人会という組織があるそうです。
 このことについてどのように思われますか?又、浄土真宗ではこのような言葉は使われますか?

返答

◆ 女性の置かれた状況

 ご質問の通り「寺庭婦人」というのは「寺院に住む僧侶の妻」という意味ですが、 これは日蓮宗だけでなく臨済宗や浄土宗など他の宗旨でも使われる言葉です。

 アニメの「一休さん」を見ると、僧侶の生活が大体わかりますが、 出家僧侶は、原則として結婚できませんので、 寺院の内向きの用、例えば庭掃除や食事の支度等 もろもろの寺院運営は、僧侶たち自身の手で行い、 在家の信者、特に女性は外側から奉仕する形で寺院を支えてきました。

 実は浄土真宗以外の僧侶は全て出家の立場ですから、 江戸時代までは、表向き尼寺以外の寺院に女性は暮らせませんでした。 勿論、裏も表もない寺院はいいのですが、裏表が異なる寺院では、 そうした女性を大黒様などと呼ぶ慣わしもあったようで、 江戸時代の川柳にはよく言い回しとして登場してきます。

 明治以降はそうした宗旨でも僧侶が結婚できるようになり、 夫婦で寺院を支える体制が確立しつつありますが、 ここで問われなければならないのは、 教義としても女性にきちんとした立場が盛り込まれているかどうか、という問題です。 つまり、「本来の教えから言えば僧侶は結婚できないが、現状に妥協して結婚する」 という意識がまだ存在しているということなのです。
 これは出家僧侶が在家僧侶を批判してきた歴史が長かったため、 自分達の宗旨に在家僧侶の数が増える事を良しとしない人たちが大勢いるためでしょう。

 ただそれらの宗旨において「寺庭婦人」という言葉が現在どのような意味をもち、 それが寺院や教団の中でどう影響しているのか、という具体的な事柄は、 私どもとしてはコメントする立場にはありませんので、ご容赦ください。

 浄土真宗では僧侶も在家ですから、結婚が教義として許されています。 宗祖である親鸞聖人は、歴史上最初の(正式な)妻帯僧侶でもありました。 寺院を守る女性は「坊守(ぼうもり)」という立場(役職)があり、 一般的には住職の妻がその任に当たり(そうでない場合もあります)、 大抵は給料も支払われます。
 また坊守も僧侶であったり、女性が住職を勤める寺院もあります。
 ちなみに平成12年9月1日の段階で、本願寺派の女性僧侶は8,824名で、 全僧侶が30,635名ですから約30%をしめるのですが、 住職は9,158名中231名で約2.5%に過ぎません。 これは制度というより慣例や意識の問題であろうと思われます。

◆ 性差別を生む慣例

 さて、女性が家庭にいるべきか社会進出すべきか、という問題ですが、 これ自体は個人と社会の問題であって、仏教が誘導すべき課題ではありません。 仏教を学んだ女性が、家事育児に専念するも良し、 社会進出しても良し、ということでしょう。
 本当に仏教が関わるべきは、家庭や職場において、 「女性である」という理由で人格や立場を危うくさせる慣例があったり、 悪質な性差別が発生した場合でしょう。 そうした際には、「共に相手を認め、助け合って歩む」という基本から、 様々な改革を促すことが肝心と思われます。
 多くの場合、男性側が自分の立場を有利に導くため、 差別的な慣例を押付けることから問題が発生します。 もちろん、これは寺院も例外ではありませんので、気をつけなければいけませんね。

 以上は理念・制度の話ですが、実際に仏教の歴史に女性差別があったかどうか、 という問題になりますと、残念ながら「大いにあった」と言わざるを得ません。 仏教者は常に心身と社会に変革を促す者でなければならないのに、 現状を無批判に容認する男性僧侶も多く、 それは釈尊や宗祖の努力を無にするばかりでなく 性差別を定着する役割まで果たしてしまいました。 寺院で何か不都合が起った場合も、批判の矛先が僧侶本人ではなく伴侶に向くことは、よく聞く話です。

 こうした仏教と性差別の歴史に関しては、また機を改めて述べさせていただきます。


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