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【平成モニター】

平成17年9月29日

愛・地球博のもたらしたもの

謙虚に自らの業を振り返り、自然の叡智に学ぶ姿勢を

成功を次につなげるために

 9月25日に閉幕した『2005年日本国際博覧会』(愛称「愛・地球博」、略称「愛知万博」)。おそらく万博が始まるまで、いや始まってからでも、当初はこれほどの成功を収めるとは誰も予想しなかったのではないだろうか。
 私自身幾度も足を運んで得た情報など総括し、以下この万博の成功の要因と、今後の課題について述べてみたい。

 成功の要因

愛地球博風景

 まずはテーマとして掲げられた「自然の叡智」が万博成功の第一の要因であっただろう。
 これは企画段階で、自然保護の見地から根強い反対運動に遇い、また末広まきこ議員の公約違反問題も飛び出すなど、「とってつけた妥協案」と勘ぐる向きもあっただろう。さらには「既に万博を行う時代ではない」と、存在意義そのものを疑問視する声さえあがっていたほどだった。これは、以前までの万博は科学技術の発展を披露する場であり、時として自然環境の破壊をもたらし、植民地政策を正当化する場として機能してきた経緯もあったからだ。
 ところが結果としては、6月24日のBIE(博覧会国際事務局)総会で、「愛知万博は大変成功している」「万博の前向きな意義をあらためて世界に発信した」と、博覧会協会と日本政府を称賛することを全会一致で決議したことに象徴されるように、今後の万博の新しい在り方を提示する歴史的な成果を生む開催となった。こうした決議がなされるのは極めて異例らしいが、BIEが当初の計画を「自然破壊」と批判し会場見直しを迫ったことを考えると隔世の感さえある。

 万博成功の第二の要因は、この「自然の叡智」という難しい問題を、地道に市民参加に結びつけていったことにある。
 実を言うと、3月に万博に行った時の私の偽らざる感想は、「まるで環境問題の研修に来ているみたいで面白くない」「こんな娯楽性の少ない博覧会は成功しないだろう」という予想だった。現に3月4月は入場者も伸び悩み、美しい会場だけど何か物足りない寂しさをかかえていた。その上弁当持込禁止の問題もあがり、官尊民卑[かんそんみんぴ]の色合いが強いこの地方独特の悪しき慣習が禍いするのではないか、との懸念もあった。
 ところが、徐々に森林保護問題を実地で学んだり各種NPOのイベントに参加する人たちが増え、入場者自身の意識改革がなされ、環境問題と娯楽性が並立する結果となっていった。これは全く私は予想外だった。考えてみれば、外国館や企業館での取り組みも叡智あふれるものが多かったし、難しいテーマを正面にすえてよくここまで消化し切れたものだと思う。関係者の努力には拍手を送りたい。

 派手なものを見せるだけがエンタテイメントではない。派手なものは飽きも早い。じっくりと学ぶことを楽しむ、これこそ持続可能なエンタテイメントであろう。そしてこれが持続可能な社会の根幹となってほしいと切に願っている。

 万博を振り返って

 ここで、万博期間中に印象に残ったことを幾つか挙げてみたいと思う。

内覧会での混乱・不評
 開催前の内覧会では、弁当やペットボトル持込禁止問題など不満が続出し、没収された食べ物は山積みになった。また慣れないスタッフの不手際から荷物検査に長蛇の列ができ押し問答になるケースもあった。内覧会での印象はおおむね、展示内容は好評、全体の流れは不評、といったところだった。
伸びない3月の入場者数
 いざ開催と意気込んだ初日の入場者は約4万3000人。結局これが全期間中最低の出足となった。開幕3日間の入場者数は万博直前に開港された中部空港(セントレア)にさえ劣り、グローバル・ループにはひび割れが見つかり、リニモも度々故障し、周辺観光地もガラガラと問題山積。後に解決のついた問題もあったが、最後まで周辺観光地への相乗効果は期待を裏切る結果となった。そんな中、小泉首相の鶴の一声で弁当持ち込みが可となったが、協会幹部の体質を見る思いがした。
徐々に客足増加
 4月から手作り弁当の持込みが解禁されて、客は喜び、店は不満顔。「話が違う」との声も一部レストラン側から上がったが、この流れでは仕方ないだろう。この頃からキッズ・エコツアー始まり、小中学生が環境施設を見学するなど、「環境万博」としての特徴が出始める。各種イベントも充実を見せ、山車100台を集合させるなど派手な演出もあり、徐々に客足が増える傾向をみせていた。
充実した内容に賞賛集まる
 5月には半世紀ぶりに褒賞が復活。外国館に金銀銅の「自然の叡智」賞が与えられた。テーマが褒賞の復活を促した例だろう。またイベントの充実ぶりは目を見張るものがあり、環境をテーマに多くのトーク&ライブが催された。BIE総会では博覧会協会と日本政府を称賛することを全会一致で決議し、中国ナショナルデー公式式典では呉儀副首相も今博覧会を絶賛した。しかしその反面、反日デモの影響からか中国人の入場者は伸び悩み、また竹島問題もからんで韓国人の入場者も思ったほど伸びず、外国人入場者は終始目標を下回った。これは「大成功」と総括される今万博で唯一解決できなかった残念な結果だろう。会場内の問題としては、女性トイレは常に長蛇の列があり、授乳やおしめ替えの場所も充実しているとは言い難かった。
2204万9544人の熱気
 万博当初目標としていた入場者数は1500万人。3月の段階では目標にたどり着かないのではないかと懸念されたが次第に増加し、8月中旬からは入場制限まで検討される混雑ぶりとなり、最終的には2204万9544人の入場者を数えた。また環境に配慮するという目標では、会場内にムササビ(ムーと命名)が訪れたことが象徴するように、環境破壊は最小限に留めることができたようだ。万博のトークイベントで、C・W・ニコルさんが「森は人間によって破壊もされるが、回復させることもできる」と語り、「破壊するよりも放置することの方が罪」と指摘していたことを思う。外国館のスタッフからは日本人のイメージについて、「忙しいはずの日本人がここでは長時間平気で並ぶ」と辛抱強さに驚き、「優しく友好的な姿勢」が評価されたようだ。個人的な感想をいえば、3月の段階から徐々に全体の内容が豊かになり、9月の段階ではスタッフやボランティアの人たちも慣れて手際がよくなっていたため、混雑していても上手に捌けるようになっていた。これには多くのリピーターたちが万博を満喫する術を学んでいったことも影響しているだろう。そして最高に盛り上がったところで閉幕を迎え、多くの「燃え尽き症候群」が発生しそうな様子だが、学ぶことを楽しむ術を覚えた多くの市民は、万博後も「何かをしたい」という意欲満々。今後が楽しみだ。

 地球的課題の解決を継続する

 まずは個人的な感想(というか感傷)――9月25日、仕事が終わってから最終日の万博に向かう。午後3時に到着し、三菱未来館、超電導リニア館、同3Dシアター、そして日立グループ館と、行列が長すぎてあきらめていた人気パビリオンを一気に制覇し、キッコロ・ゴンドラに乗って上空から様々な閉会のイベントを眺め、スイス館で食事をしている頃にスタッフの打ち上げパーティーが始まるのを見、アフリカ共同館前で最後の閉店セールで買い物をし、出口で事務局長やスタッフの人たちとハイタッチをして帰ってきた。「26日も行く」と言ってた主婦もいたが、あの様子だとおそらく行くのだろう。

 万博は一過性のものだ。「これが明日から解体されるなんて信じられない」と感想を漏らす人がほとんど、それほど素晴らしい内容だった。一つ一つどんな小さなものも宝石のように輝いていた。拡大解釈と言われるかも知れないが、私は「ここに小さな浄土が現出している」とさえ思う程だった。
 しかし今は建物の大半は解体され、その多くがリサイクルに回され、また存続・移転されてゆく。名残りは尽きないが、大きな花火だったんだ、と思い返す。そして万博の成果は国や企業や市民レベルでも受け継がれてゆく。EXPOエコマネーも「アスナル金山」(金山総合駅に隣接)で継続していくことが決まった。

 今後の万博のテーマも「地球的課題の解決」を抜きには語れないだろう。2008年スペインで開催されるサラゴサ万博(認定博)のテーマは「水と持続可能な開発」となっているし、2010年中国で開催される上海万博(登録博)テーマは「よりよい都市、よりよい生活」だが、これも環境問題を無視はしない方針のようだ。
 中国は現在、高度成長期の真っ只中であり、開発競争の中で環境問題が深刻化する懸念がある。このような時期に万博が開催されることは非常に意義深く、万博史上最多の7000万人の入場者を目標としていることからも、その影響は計り知れない。地球規模の環境問題解決には中国人民の協力が必須であることは言うまでもない。ぜひ真摯にテーマに取り組み、上海万博ならではの成功を収めてほしいと切に願っている。

[Shinsui]

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