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【映画・書籍等の紹介、評論】
男たちの大和/YAMATO 【本・映画等の紹介、評論】

男たちの大和/YAMATO

真摯な態度で作られた戦争映画ではあるが……


◆ 真摯な態度には脱帽

 戦争映画を語る時、前提として必ず「これは真摯な態度で作られたリアルな戦争映画か、それとも嘘で塗り固めた戦争賛美映画か」と問うことにしている。戦争は常に悲惨であり、その悲惨さから目をそらすために製作されたプロパガンダ映画も数多くあるからだ。

 遅ればせながら、年明けに『男たちの大和』を観た。
 撮影やCGの技術的な問題はさておき、製作側の意図はまぎれもなく「リアルな戦争映画」であった。少なくともリアルな戦争映画であろうと努力した作品だ。戦争を美化することなく、戦場の悲惨さを、戦うことの虚しさを丹念に追っている。その真摯な態度を観れば、「戦場に放り込まれながら死ぬ理由さえ見出せない極限の辛さを再現しようとした映画」と評することもできるだろう。乗組員たちの心情も、家族の心情も痛いほど伝わってくる。

 さらにこの映画は、最後(昭和20年4月)の航海は全く無謀な作戦であることも伝えている。戦艦大和は片道だけの燃料を積み、護衛は一機もつけずに沖縄へ向かう。軍上層部は卑怯にも自ら下した命令の責任は取らず、大和に乗り込もうとさえしなかった。戦略的には最悪の作戦であることは誰の目にも明らかだ。

 だがこの「誰の目にも明らかな最悪の作戦」が、時としてその悲惨さゆえに美化されることもある。

 つまり、最悪の作戦であり悲惨な状況に放り込まれた戦いだからこそ、その全てを美化したいという心理がはたらくのだ。ましてその悲惨な立場が自国の軍人であった場合はなおさらであろう。戦争で死ぬのは大和の乗組員だけではない。米兵にも数多くの犠牲者が出た。だが軍事力に圧倒的な差がある中では、どうしても「判官びいき」の心理がはたらく。

 ただし私は、大和乗組員の死の美化まで妨げるつもりは毛頭ない、「尊い犠牲」と思う。だが製作側の意図を離れ、犠牲者の死の美化が、作戦や戦争そのものの美化につがりかねない、もしくは「つながせかねない」動きがあることに危うさを感じるのだ。

◆ 欠けている視点

「多くの方達が命を懸けて守った日本に、今私達は立っている」―― この削除されたメッセージには、一つ抜けている視点がある。それは、「戦争は自然災害ではない」ということだ。戦争は誰かの意図で始めたものだ。

「多くの方達が命を懸けて守った日本」、これは確かに私たちが先祖に抱く偽らざる思いだろう。だが、命を懸けて守らざるを得ない状況に何故してしまったのか、という視点は欠如している。つまり、そこに至るまでの日本外交の検証が映画でも現実でもなされていないのである。

 当時の日本人には強い愛国心があった。だがアメリカ人にも強い愛国心があったはずだ。これをあえて軽視したり考慮しない油断があったのではないか。愛国心は世界各国共通の思いであり、国民に愛国心が無くなれば国が滅ぶのは自明の理であろう。だからこそ為政者や官僚・軍上層部は、柔軟な政策をによって愛国心を発露させなければならない。

 利己主義が排斥されるのは個人も国家も同じである。日本の繁栄が他国にとって危険と見なされれば、他国の愛国心と戦わざるを得なくなる。そのため外交は、強い忍耐力と細心の注意を払って行わねばならない。だが戦前の状況には大いなる油断があったとしか思えない。

 映画の中で白淵磐大尉は言う――

進歩のない者は決して勝たない。
負けて目覚めることが最上の道だ。
日本は進歩ということを軽んじ過ぎた。
私的な潔癖や徳義にこだわて、真の進歩を忘れていた。
敗れて目覚める。
それ以外にどうして日本は救われるか
今目覚めずしていつ救われるか。
俺たちはその先導になるのだ。
日本の新生にさきがけて散る、
まさに本望じゃないか。

 敗れて目覚める、真の進歩に目覚める。
 確かに日本は戦後、大和を造り上げるような技術を平和利用し経済発展を遂げた。経済崩壊の課題も幾度も乗り越えようとしつつある。だが私たちは本当に目覚めているのだろうか、真の進歩を続けているのだろうか。大和の乗組員たちを悲惨な場に追いやったような轍を二度と踏まないと断言できるのだろうか。

 今の日本の状況、どこか油断があるぞ、と私は懸念している。いくら経済が復調しても、いくら技術力があっても、外交に油断があれば繁栄は長続きしない。忸怩たる思いをいくつも乗り越えなければ平和は創造できない。「私的な潔癖や徳義にこだわって、真の進歩を忘れていた」と後悔する状況は、巨大な資産や技術力を誇り他国の諸事情を軽んじている現在の日本の姿そのものではないだろうか。

 歴史に学ばない国は、過去と同様の過ちを犯すことは必然。外交の柱に忍耐力の偽造はないだろうか。自国の理想を誇りすぎれば他国の裏切りを招きかねない。

「敗れて目覚める」。しかし、こんな悲惨な目覚め方は一度で充分だ。

公開:
2005年12月
監督・脚本:
佐藤純彌
原作:
辺見じゅん
音楽:
久石譲
製作:
角川春樹
企画:
坂上順、早川洋
出演:
反町隆史、中村獅童、松山ケンイチ、内野謙太、橋爪遼、渡辺大、崎本大海、仲代達矢、鈴木京香 他
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