『うつ、のち晴れ。』の著者 三島衣理さんは、三十代半ばの初冬、治療困難とされる「パニック障害(不安神経症)」の発作が起きたのだが、あえて精神科医に頼らず、<我流の療法>によって少しずつ快復。現在はほぼ克服している。
本来、こうした自己診療は危険でお勧めできないのだが、三島さんの行った自己診療は、実は<脳科学・精神科学的にも理にかなっていた>ことが後に解り、さらにうつで苦しむ友人・知人たちにも紹介し、実際に効果があったため本書の執筆につながったという。
三島さんが独自にトライした<我流の療法>をまとめてみると、以下の十五項目になる。
- 眠れないなら、眠らないまま何かしよう
- 眠らなければいけない≠ニいう脅迫観念を捨て、開き直って楽しい内容の本でも読むうち、少しずつでも寝れるようになる。ただし、恐怖をあおるような本や映像は厳禁。また、昔の楽しい思い出にひたり、不安の原因を探らないこと。
- 報道番組、見ザル聞かザル
- うつ族≠ヘ大抵被害者に共感してしまうので報道番組は見ない方が良い。凄惨な事件を何度も見聞きしているうちに不安がつのってしまう。必要な情報は新聞や雑誌で得るようにする。
- 朝日を浴びて歩く、歩く、歩く
- セロトリン(脳内でつくられる神経伝達物質)の濃度が低いとウツやキレやすい気性になる。対処する薬もあるが、処方が難しい。副作用の心配なしにセロトリンを増やすためには、朝日を浴びながら歩くこと。
- イチゴパック食い&ニンジン丸かじり
- ドリンク剤には頼らず、ビタミンCやA、カロチンを含んだ果物(例:イチゴや、ニンジン、ダイコン)などを多く摂る、それも朝摘が最高。
- 練乳デザートで一服
- ウツを遠ざけるはたらきのトリプトファンと糖分を一緒に摂れるので、練乳は鬱解消の決め手となる。
- 良質の天然水を飲む
- 塩素やトリハロメタンなどが混ざった水道水や加熱されたミネラルウォーターではなく、非加熱の天然水にこだわる。
- 手結びのおにぎりを食べる
- コンビニで売られているような大量生産のものではなく、親しい人が握ってくれたおにぎりを食べるとなぜか力がわいてくる。気のせい≠ゥもしれないが、その気持ち≠ェ鬱解消には大きく作用する。
- 木に抱きつく
- 木は気に通じる。できるだけ太く元気のいい木にセミのように抱きつくと、何かしら通じあうものがある。
- 鏡に向かう
- 自分の存在を確認するように鏡に向かい、やつれた表情を直すため口角を少し上げ笑ってみせる。鬱から抜け出すには上質な笑いが一番。
- 花を飾る、花を育てる
- 部屋が殺風景ではウツは治りにくいので、特に意識して部屋に花を飾ること。最初は小さなサボテンでも良いから、少しでも花と接する機会を持つ。
- 天然温泉に入る
- もし露天風呂なら、湯船につかるだけでなく、外気に裸身をさらす「外気浴」も交互に行うと良い。ただし、塩素や入浴剤の入った天然温泉もどき≠ナは<入浴後の疲労回復や、リラックス感>が違うので注意を。
- 元気な人と握手する
- ウツの時こそ色々な人に会って話し、できれば握手もして元気を分けてもらおう。
- 電磁波を遠ざける
- 身心ともに健康な時は「電磁波なんて影響ない」と言えるかも知れないが、ウツの状態の時はなるべく避ける。
- 東洋医学、民間療法に親しむ
- ウツ状態からある程度快復したら、総合的な治療として東洋医学や日本の民間療法を施すようにする。
- 物事を多面的に見る
- 足りないことばかりに目を向ける不平人間≠ゥら脱して物事を様々な観点から見、「吾唯足知(
吾 、唯 、足るを知る)」と、あたえられたものや境遇に感謝して生きる。[
本書はまた、うつ族ばかりでなく、うつになりやすい傾向の人がうつとうまく付き合いつつ快適に暮らすための方法≠ェ六項目で紹介されている。
- 過労を防ぎ、体の健康を保つ
- 実力や体力の限界まで頑張らず、意識的に休む習慣を。
- どうにもならないことを受け容れる
- ふりかかってきた困難に対して真正面からぶつからず、「逃げる」「避ける」「かわす」「待つ」「放っておく」という対処方法もあることに気づく。
- 迷ったら好き嫌いで決める
- 義務感や使命感で頑張るのではなく、なるべく好きか嫌いか≠ニいう希望的選択で生きてみる。
- 感謝のメガネをかける
- 「吾唯足知」の実践は、全てに感謝すること。晴天に感謝し、雨天に感謝する。
- セロトニン神経を鍛える
- リズムのある運動、たとえば歩行や呼吸法、運動、念仏をとなえる、ガムを噛む、など15分以上行い、バナナや大豆製品、乳製品、赤身の魚などトリフトファンを含む食べ物を積極的に摂る。ただしセロトニン前駆物質を錠剤にしたサプリメントは危険なので手を出さないこと。
- 行き詰ったら、旅に出る
- <スケジュール的、金銭的に泊まりが無理ならば、日帰りの小さな旅でもOK>で、気分転換が必要になったら取り合えず場所を変えること。
本書全体でいえることは、気の流れを大事にする東洋医学に基づいた著述であることだ。もちろん西洋医学も参照する箇所はあるのだが、東洋医学に偏った傾向がある。時流として東洋医学が見直されてきているのは解るが、西洋医学や薬効を甘く見てはいけないだろう。
三島さんは、身近に薬の副作用≠見聞きし、精神科で良い治療結果が得られていない知人らを見て我流に走ったようだが、多くのクリニックを訪ねれば必ず名医に当るはずなので、そうした努力も欠かさない方が良いだろう。特に薬は、人体実験を徹底的に行うのでやはり西洋医学の方が進んでいる。偏見を持たず多くのクリニックを訪ねてみることを私はお勧めする。