映画のチケットはチケットセンターで買うことにしているYさん。家族分の『少林サッカー』を買って振り向くと、近所に住むTさんがモネ展のチケットを買っているところだった。
「それ、何のチケットざます?」とTさんに問われ正直に答えると、「まあ、何それェーー、けたけたけた」ってな感じで顔をくしゃくしゃにして笑われたそうである。
「そりゃー、モネ展の方が文化的だと思うけど・・・」くやしい思いを胸にYさんは語る「子どもたちが見たいと言ってたから仕方ないじゃない」
しかし、こう言って出かけた映画館で、家族の誰よりも笑っていたのはYさん自身だったそうである。
この映画、見ているのが辛いほどギャグは馬鹿馬鹿しいし、つじつまは全然合っていない。それに下品で無駄な暴力シーンも多い。だがストーリーが進行するうちに、そんなことはどうでもよくなるのが不思議だ。
漫画やアニメを実写の映像にするとこんな風になるのだろう。「こういう映画が見たかったんだ!」と感じた人も多いはずだ。ついでに「どうして日本でこういう劇画調の映画を作らないんだ!」という感想を持つ人も少なくないのではないだろうか。各所にドラゴンボールや北斗の拳など日本アニメの影響が見てとれるからだ。日本の映画界の人たちも、もっと足元の文化に目を向けるべきだろう。
ところで、映画の前半には、どこで集めてきたか分からないが不思議なキャラクターが多数登場する。特にでかい顔で、ついでに肩幅が狭い自称作曲家役のホー・マンファイ氏は、その中でも群を抜いている。彼の歌をまともに聴いていられる人などいるだろうか。これの馬鹿っぷり、どうもこの役者は作品で描かれている以上に自意識過剰らしく、<主役よりハンサムなので嫉妬されている>、と勘違いしているそうだ。誰か彼に本当のことを言ってやらないと人生を誤るのではないだろうか。
なお、ヒロインには、一見ブサイクな饅頭屋の店員ムイ(ヴィッキー・チャオ)が登場するが、国民的アイドルの彼女の変身ぶりも大いに笑わせてくれる。特にエステに行った後のキャラは笑いを通りこしてシュールですらあり、最後の衝撃的なキーパーの姿の方がむしろ自然に感じられる程だ。これで彼女はバラドル(死語?)としての地位を確実なものにした、かも知れない。
このように滑りすぎたギャグから目を背けず、アストロ球団的な少林拳とサッカーの合体をひたすら楽しめば、ワールドカップに勝るとも劣らない感動が得られるかもしれない。