平成アーカイブス <旧コラムや本・映画の感想など>
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『ラヂオの時間』(1997年)に続き、三谷幸喜 脚本・監督映画、ということで期待して観に行ったが、前作のような《立て続けに繰り出されるトラブルと笑い》という非日常的な作品ではなく、誰もが実際に関わりうる「家作り」をテーマにした喜劇だ。出来としては、丁度この家の仕上がりのように愛らしいものになったと言えるだろう。
映画の最初は、依頼主・飯島直介の仕事(脚本家)の「おとぼけマンション」構想シーンから入るが、これが映画の随所に入って笑わせてくれる。実は直介は常にこの脚本の仕事に気を取られていて、新居にはそれ程こだわりがなく無難に家が建つ事を期待している。従来の三谷作品でいえば、この役は西村雅彦がはまりそうなのだが、ココリコの田中直樹もいい味を出して《ダメ男》を演じている。
対して、八木亜希子演じる姉さん女房・民子は、「一生もんだからね」「おしゃれな家にしようね」と必死。学校の後輩でもある新進気鋭のインテリア・デザイナー柳沢英寿(唐沢寿明)に設計を任せる。
さて、幸か不幸か民子の父親・岩田長一郎(田中邦衛)は大工の棟梁。久々に大仕事を任され、古い仲間を呼び大乗り気であるが、集められた癖のあるメンバーを見れば、これから起るバトルは容易に想像できる。
[設計:お洒落なアメリカ建築] VS [施工:こだわりの和風建築]の闘いは共に妥協を許さず、ことごとく意見がぶつかり、最後は「あなたの家だから」と直介に決断を迫る。優柔不断な彼の妥協は双方にわだかまりを残し、基礎工事・上棟式を迎えるが、予定では6畳だった和室が勝手に20畳に拡大され、設計者の柳沢はあきれ果てる。
その後、洗面所に使うタイルの選択から、長一郎も柳沢の意図を理解するようになるが、柳沢の<自分の問題>としての行動からまた対立に逆戻りし、暴風雨で起ったハプニングでは決定的な反目になるはずだったが・・・
監督の体験をベースに脚本を組んだということで、リアリティーというか“こういう事ってあるよなあー”という感想である。一度でもこうしたことに関わった者であれば、涙なくしては観られない(?)映画であろう。
また、今回数々の個性溢れる俳優人たちに混じって、「普通の主婦」の役を自然にこなした八木亜希子の存在は貴重で、振り回されながらも自分の意志を貫こうとする彼女こそがこの映画と家の監視役とも言える。ただ、映画で観ると俳優としての才能も感じるが、どうも撮影現場ではトラブルの連続だったようで、これが最後の映画出演となるかも知れない。
また田中邦衛は撮影後、「結局これは〜 コメディー映画だなぁ〜」とつぶやいたとか。もしかしたら「北の国から」的感動作品と勘違いして出演していたのかも知れない。あの迫真の演技はこうした思い込み違いからかもし出されていたのだろうか。
それにしても、家を建てるという時に、どうして主役であるはずの依頼主が、特に夫の意向が全く反映されないのか不思議で、この映画で欠点を指摘するとしたらその点であろう。例えば飯島直介が、途中でもいいから自分のこだわりをぶつけ、一昼夜くらい篭城する場面が欲しかったところである。また、脚本の流れでいくと、<自分の問題>として柳沢が壁にペンキをぶつける場面は、竹割りタイルをめぐって相互理解が進む前に入れるべきではなかっただろうか。
ただ、そうした欠点を補って余りある映画ではあるし、前回の『ラヂオの時間』でコールド負けを喫した「打倒 ジブリ」も、作品の出来自体から言えば充分対抗しているはずなので、興行成績としての成功も期待できるのではないだろうか。
今後も三谷氏には職人魂を追ったコメディー映画を望み、同時に中井貴一氏には「おとぼけマンション」シリーズのTV化を強く望むところである。