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【映画・書籍等の紹介、評論】

マジカル・ミステリー・ツアー

ザ・ビートルズの創造的失敗作

1967年12月26日初放映

◆ 確認できなかった伝説

『ザ・ビートルズ』は今更説明するのももどかしい程の存在で、相当なハード・デイズな毎日を送ったグループだった訳で、以後のロック・ポップス界は、彼らの敷いた基本路線の延長線上に位置しているといっても過言ではない。当時の活躍は、レコード、CD等によって「ビートルズ世代」以後の我々にも、その伝説的な偉業を確認する事ができる。

 しかしそうした「大成功物語」のうちで、中々確認できなかった伝説がひとつあった。それが「ビートルズ結成以来初の失敗作」とレッテルを貼られた映画『マジカル・ミステリー・ツアー』だった。

 映像の一部は、テレビでも時々組まれる特集で見る事があったが、全体を見る機会は無く、「どのように失敗し、現在なぜ再評価の声が上がっているのか」長らく分からなかった。

◆ 評判が悪かったのは仕方ない

 1997年にビデオが発売され、ようやくその全体像が確認できた。見終わって感じた事、それは、一般の反応が悪かったのは仕方が無いということと、やはり今の音楽シーンを先取りしているということだ。つまり、この『マジカル・ミステリー・ツアー』の評価は、なるべくしてなったということである。

 当時、評判が悪かったのは仕方が無い。まず、ストーリーらしいものが全く無いので、見ている側は意味が分からないのだ。当時、出演者自身も「理解に苦しんだ」という撮影状況だが、今となってはそうした戸惑いを想像する方が面白い。仕上がった映像は、下手に演技をつけているため、全く緊張感を欠いたものとなっている。

 リンゴ・スターも、この映画以後は俳優としてもいい味を出すのだが(特に『リスト・マニア』は秀逸)、この作品に限って言えば、演技の上手さがわざわいし、現実感を引き戻してしまっている。おそらく徹底的にシュールで下手くそな映画に仕上げれば、評価もかわっていただろう。

 また、作品の発表時は白黒の放映だったというから、おそらく魅力の半分も伝わらなかっただろうと想像される。そして、一度貼られた「ビートルズ最初の失敗」というレッテルは、どこまでも付いて回ることになった。

◆ プロモーション・ビデオのさきがけ

 そうした「失敗作」であるにもかかわらず現在は評価が高い。理由は、これこそ今は常識となった『プロモーション・ビデオ』のさきがけであったからだ。特に『アイ・アム・ザ・ウォラス』は、曲も最高だが、映像との組み合わせも素晴らしい。この部分を見るだけでも、ビデオを買う価値があるというものだ。
 もちろん、現在のような技術は無い訳だから、映像の「切れ」自体は今のそれとは比較できない。しかし、その古さを補って余りある創造力がそこにはある。

 思えばビートルズの活動は、その一つ一つが創造力に満ちていた。それは音楽面でも活動面でも、衝撃的な斬新さと桁違いのセールスが同時に語られる歴史上でも特筆すべき存在であった。また「破壊の上に創造が成し遂げられる」の通り、彼らの「既成概念の破壊」は、イギリスという比較的保守的な国にあってこそより衝撃的であったのかも知れない。

◆ 破壊なき創造

 さて現在の音楽、のみならず文化状況を見ると、どうであろう。

 ビートルズの活躍した時代に比べれば、多種多様なな表現形態が一般にも受け入れられ、先の『マジカル・ミステリー・ツアー』も評価が高くなった。これは以前より「創造的な時代」なのだろうか?

 技術的には「めぐまれた時代」なのだろう。口やかましい大人も少ない。だが「創造的な活動」には、それを生み出す為の「抵抗力」が必要だ。社会に「一見、正常で頑固な常識」があってこそ、その壁を破壊する創造力が生れる。「何をやっても自由です」というのでは、何の為の自由なのか分からない。

 おそらく人々は口で言うほど寛容ではないはずだ。問題は、心に溜まった頑迷さを表現さえ出来ずにいるところにある。
 自分の破壊すべき目標はどこにあるのか? 結局その肝心な部分を見つけられない人達が増え、みせかけの創造を繰り返しているのが現在の文化状況ではないだろうか。そのために突然、身勝手な破壊目標をでっち上げる輩が出て、創造無き破壊に至ってしまう。

 こんな状況が続く限り私たちはビートルズの敷いた路線で満足しているだろう。そしてその延長線上で、ただ目線を変えたり、技術の進歩だけで「創造的」という称賛をアーティストに与え続けていく事になるのだ。

 それはそれで満足せしめてしまう魅力があるのであるが……

[Shinsui]


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