女性の平均初婚年齢28.5歳、出生率は1.32(いずれも2008年調査)という状態に留まっている今の日本。世界各国との比較で<伝統的な家族観が根強く残っているグループ>こそ出生率が低いことに気づいた著者は、特に韓国の出生率が一時1.08まで低下したことを知り、<我が国において少子化、晩婚化という問題がここまで深刻になっている背景には、儒教的価値観がしっかりと染み込んでいる土壌に、近代的男女平等思想を覆いかぶせようとしたからなのではないか>と狙いをつけ、日中韓東アジア三国の独身事情を探りに現地に飛んだ。その報告書的な本が『儒教と負け犬』である。
まず現代日本においては、儒教を体系的に学ぶシステムはほぼ崩壊している。たしかに「子の曰わく、学びて時にこれを習う、
次に韓国。ご存知のように中国以上に儒教の影響が強い国だ。この地においても日本同様、恋愛結婚が見合い結婚の割合を抜いた時代から晩婚化、少子化が始まっているのだが、結婚願望を素直に表現できない儒教文化的心理と、近年の恋愛至上主義が反目していることが指摘される。また、韓国女性は性的な話題に触れることはタブー視されていて、同棲やシングルマザーに対する視線も厳しい。そのため海外に養子に出される子どものほとんどは、こうした出産によるものだという。
最後に上海に飛んだ著者は、男性に比べ圧倒的に強い女性≠目の当たりにする。しかも、<中国の女性というものは、革命後に解放されて急に強くなったのではなく、実は二千年前から、というかもっとずっと前から、強かったのだ>と気づく。そして<女性を脅威に感じた男性は女性の力が発揮できないような仕組みを儒教によって作っていったのではないか>とほぼ結論づける。
すると、強い中国女性を押さえ込むための儒教というシステムが他国に輸出された時、もともと中国女性ほど強くはなかった半島や日本の女性は、一方的に男に従う「三従の道」を強いられてしまった、という構図が見えてくる。これが本当だとすれば実に悲劇としか言いようが無い。今後は儒教的文化を見直し、各民族の実情に合ったシステムに変換すべきだろう。
なおこの本の54頁には『儒教とは何か』(加地伸行著/中央公論)を参考に仏教と儒教の違いが簡潔に述べられているので、関係者には両書の一読を勧める。