<パワー過剰でアルコール依存症のヒーロー「ジョン・ハンコック」をウィル・スミスが演じる>
こうした設定が面白いだけのB級映画かと思って見に行くと……その通り、ただ設定が面白いだけのB級映画だった。
CGが凄いとか、視覚効果が斬新だとか、後半にどんでん返しがあるとか、そうしたこと全ては想定の範囲内(死語?)で今さら驚きはしない。ついでに、ヒーローの行動が実際には傍迷惑であることは既に『空想科学読本』で知っていたし、『MR.インクレディブル』の方が訴訟国家への風刺が効いていてパロディーとしては一枚上だろう。
それでもなおこの映画に魅力を感じるのは、今のアメリカの自画像的な作品だからだ。
衰えたとはいえアメリカはいまだ超大国であり、何よりも軍事力は他国を圧倒している。ひとたび軍事介入すれば、そのスーパーパワーが炸裂して敵を難なくぶっ潰すことが可能だ。ところがそのパワーを統括しコントロールすべきドンが酩酊状態では傍迷惑この上ない。
アフガンの民衆もイラクの民衆も、アメリカに感謝するどころかクソ野郎≠ニ罵っている。何とか正義のヒーロー≠ニして返り咲き、尊敬されていたあの日に帰りたい―― こうした境遇と心境が下地にあるためハンコックは皆の共感、特にアメリカ人の共感を得るのだろう。
一度失った好感度を上げることは中々難しいが、アメリカには「せいぜい頑張ってください」とエールを送ろう(上から目線だが)。今後は暴走などしている暇も余裕もないだろうからだ。ただこれは他人ごとではない。「あなたとは違う」けど、日本の小さなドンたちはこのところ事実上「失踪」状態に陥っている。
暴走も失踪も実に危険で始末が悪い。私たちは権力者や他人に対して安易なヒーロー像など求めず、まず自らの人生を誠実に歩んだ上で、他人もまた誠実であらんことを願い求めてゆこう。