平成アーカイブス <旧コラムや本・映画の感想など>
以前 他サイトに掲載していた内容です
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昨今よく「キレやすく、注意力散漫で、創造性の無い子どもが増えた」と聞く。マスコミの報道がなくても結果は周囲に氾濫している、といえるだろう。そして皆、この責任の多くは「親にある」と決め付けているが、親の反論を後押ししているのが「原因はコンピューターゲームにある」という意見だ。ただ、これとは反対に「ゲームは集中力や反射神経を高める」という研究もあり、それぞれの立場や利害もからんで、信用に足るデータも少なかった。この『ゲーム脳の恐怖』はネガティブな立場から警告を発する書となっている。
現在の目覚しいIT革命は、子どもたちの限りない潜在能力を削ぎ取っている可能性があると考えられます。これが幼児期であればあるほど、深刻な問題に陥ると思われます。
[まえがき]
私は脳研究者として、幼少のことからあまり運動もせずテレビゲームや携帯型ゲームばかりをやっている子どもたちの脳は健全に成長できるのだろうかと、日ごろから心配していました。そこで開発した機器を使って、確かめてみることにしたのです。
その結果、テレビゲームを長期間おこなっている人の脳波が、重い痴呆の人の脳波にたいへん類似していることがわかりました。α波のレベルとβ波のレベルが完全に重なってしまうのです。さらに深刻な状態では、β波がほとんど出現しなくなります。
<中略>
この人はゲームをやめるともとにもどっているので、まだよいほうです。重症になるとゲームをやめても、もとにもどらなくなります。また、さらに重症な人は、ゲームをやっていないときでも、痴呆者と同じような脳波を示します。
[ゲーム中の脳波は痴呆と同じ]
ゲームばかりしていると、人間らしさを表現する「前頭前野」が働かなくなってしまうこと。そして、「理性、道徳心、羞恥心、こんなことをしたら周囲がどう思うだろうということを、考えられなくなってしまっている」と指摘し、こういう人には周りが注意してもむだで、もともとの脳に問題をつくってしまったから、と結論づけている。
そして特に、幼児期や子どもへの影響については強く警鐘が鳴らされ、幼ければ幼いほど悪影響は大きいという。
テレビゲームをしないと友達の輪に入れないという面もあるのですから、これからの時代は、本人が目標をしっかりもたないとなりません。テレビゲームばかりで育った子は10年後、20年後には、体も弱く、まわりの人に気配りできない大人になってしまうでしょう。
これは日本だけの問題ではありません。ゲーム機器がある国はどこも同じです。アメリカでも、ドイツでも、中国でも、韓国でもゲーム機器があふれています。理性的にものを考える。冷静になるという能力が世界中で低下してしまったら、その結果はどうなるのでしょうか。みんなが問題意識をもって長いスパンで考えていかないと、たいへんなことになるでしょう。脳研究者として警告します。
[睡眠不足の子どもたち]
3章では、テレビゲームをする頻度によって「ノーマル脳人間タイプ」、「ビジュアル脳人間タイプ」、「半ゲーム脳人間タイプ」、「ゲーム脳人間タイプ」と分け、それぞれゲーム中の脳波を測定し、痴呆者のものと比較している。データから見えるのはテレビゲームの副作用ともいうべき症状で、特に「ゲーム脳人間タイプ」は、前頭前野が活動停止状態である、と結論づけている。
また、ゲームの種類によって脳波に差異があることも示しているが、興味深いのは、ダンスゲームをすると脳が活性化するということだった。結局、画像に対して指先だけで反応することが問題、ということだろう。「ゲームは反射神経をよくするわけではない」し「ボタン操作が速くなっても、それは大脳皮質の神経回路が単純化されたことによるものであって、反射神経がよくなったわけではない」という。
また、ゲーム同様に、子どもにはテレビやラジオの音を垂れ流しにすることも「情報の氾濫を招き、よくない」し、幼児教育ビデオについても、「赤ちゃんには画面がチラチラ動いているだけでなにもわからないので、お母さんの自己満足だけ」という。
そして脳を回復させる方法としては、まず「歩く」こと含めた「運動」。そして、「10円玉立て」や「お手玉」、「全身を使った遊び」を勧めている。
特に子どもには、「スキンシップ」と「手をとって教えること」の大切さ、「人間どうしのふれあい」、「五感をフル活動した遊び」を勧め、「子どもの才能や性格は生まれてからの環境によってつくられていく」と、手間をかけた教育を推奨している。 生き方の問題を問う前に、まずはその母体である脳の発達を問わねばならない時代になった、というべきだろうか。
ただし本書の内容に関して、専門家の意見として「データの解釈に問題があるのではないか」という指摘があることも付け加えておかねばならない。捏造や似非科学はいつの時代にもあり、どんな本でも全面的に信用できるものはないのである。ゆえに「ゲームばかりしていると勉強する時間が削られ、人間的な交友の幅も広がらないぞ!」と、子どもからゲームを取り上げる時の理由づけ(なまはげ的脅し?)にはなる書、程度の認識で良いのではないだろうか。