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【映画・書籍等の紹介、評論】

第9地区(DISTRIC9)

最高に汚くリアルなSF映画


◆ 社会風刺SF映画

 この映画、とにかく映像が汚い。被写体がばばっちい。そして何よりリアルだ。

 かつて映画や小説で宇宙人が出てくれば大抵、地球の文明とは一定の距離が置かれ、とりあえず神秘的に描くのが常套だった。しかしこの映画に出てくるエイリアンたちは腐ったエビを彷彿させ、黒い血と吐瀉物でまみれた映像の数々は観る者をげんなりさせる。こうしたエイリアンの言動を見ていると最初は彼らを隔離する必然性≠ノ観客は同感するのだが、ストーリーが進むにつれて疑問が生じ、秘密の部屋を目撃すると圧倒的にエイリアンの側に感情移入せざるを得なくなる。実に上手い仕掛けだ。

 ストーリーはインタビュー形式で進み、映像も画面のぶれが臨場感を醸し出すが、多用し過ぎで前方の座席で観ると酔ってしまうので、後方の座席をとるようお勧めする。また、舞台となる場所も人種差別制度が強く残っていた国、南アフリカであり、難民問題とそれに伴う人体実験や臓器売買の問題は、現実に今あるリアルな危機であり差別であろう。ここにエイリアンをもってきたのはおそらく、観客がどのような立場の者でも(その人が甲殻類かエイリアンでない限り)最初は取り締まる側に感情移入するよう仕向けるためだろう。そして次第にエイリアンの側を応援するようになる過程を通じ、実際に起こっている現実の諸問題を冷静に見つめる術を与える意図があるのだろう。

 これはSFが本来的に宿している今の社会の歪みを拡大し露出させる≠ニいう視点だ。もしこの作品にそうした意図がなくても、観客は社会風刺的に現実を見つめる目をひとつ与えられることは確かだ。

 そういう意味ではぜひ皆さんに一度は見ておくようお勧めする映画だが、もし視聴した日の晩御飯に海老が出て食欲が減退しても私は一切関知しない。

ストーリー (パンフレットより引用)
1982年、正体不明の巨大宇宙船が突如、南アフリカ共和国に飛来した。
あるものはエイリアンによる侵略を恐れ、あるものは技術の革新的な発展がもたらされるものと期待したが、UFOはヨハネスブルグ上空に浮かんだまま、まるで動こうとはしない。
しびれを切らした南アフリカ共和国政府は、ついにヘリコプターで偵察機を派遣。UFO内で彼らを待ち受けていたのは、不衛生で弱り果てたエイリアンの群れだった。彼らは故障した宇宙船に乗った難民に過ぎなかったのだ。
処遇が決まるまでの間、エイリアンはヨハネスブルグにある第9地区の仮設住宅に住まわされることになった。言葉が通じず、野蛮で、不潔なエイリアンたちが、一般市民と折り合いがつくはずもない。エイリアンは下級市民として蔑まれ、彼らが甲殻類に似た外見をしていることから「エビ」との蔑称で呼ばれるようになった。
それから何の進展もないまま月日が流れ、エイリアンの管理事業は民間企業マルチ・ナショナル・ユナイテッド社(MNU)に委託されることになった。軍事企業でもあるMNUの傭兵部隊によって力による平和が訪れるかに思われたが、MNUが彼らの世界に介入することは一切なく、第9地区はスラムと化していった。
市民とエイリアンとの対立が激化したことを受けて、MNUはエイリアンの強制移住を決定する。ヨハネスブルグ市内にある第9地区から、郊外にある第10地区に移動させようというのだ。第10地区は第9地区よりもさらに劣悪な環境だったが、もともとMNUはエイリアンの福利厚生に興味がなかった。立ち退き作業をはじめるにあたり、MNUはヴィカス・ファン・デ・メルヴェ(シャルト・コプリー)を現場責任者に指名する。事情を把握していないエイリアンたちから、承認のサインを無理矢理取りつけるのが彼の任務だ。平凡で献身的な社員のヴィカスは、まさに適任者だった。
しかし、あるアクシデントがヴィカスとMNU、エイリアンの運命を大きく変えることになる。第9地区内の小屋を調査している際に、ヴィカスが謎のウィルスに感染してしまったのだ……

公開:
2009年(日本公開:2010年4月)
監督:
ニール・ブロムカンプ
脚本:
ニール・ブロムカンプ/テリー・タッチェル
製作:
ピーター・ジャクソン/キャロリン・カニンガム
共同製作:
フィリップ・ボウエン
製作総指揮:
ビル・ブロック/ケン・カミンズ
共同製作総指揮:
ポール・ハンソン/エリオット・ファーワーダ
撮影監督:
トレント・オパロック
美術監督:
フィリップ・アイヴィ
編集:
ジュリアン・クラーク
音楽:
クリントン・ショーター
音楽監修:
ミッシェル・ベルチャー
キャスト:
シャルト・コプリー/デヴィッド・ジェームズ/ジェイソン・コープ/ヴァネッサ・ハイウッド 他
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