CG全盛の時代、いまさらクレイアニメでもなかろう、と思うのは早計。『ピングー』や『ウォレスとグミット』程度が粘土の限界と思っていた私にとって、この『チキンラン』の出来栄えは、ちょっと衝撃的であった。
そりゃもう動く動く。二本足の鶏をキャラクターにした、ということからしてクレイアニメの常識を超えているのだが、バブスやバンティにいたっては、立たせるだけで精一杯のデブキャラである。こいつらが一斉にダンスを踊ったりするのだから、製作現場を想像するだけで気が遠くなる。
まずはスタッフの努力と工夫と勇気に拍手を送りたい。
設定もなかなか考えてある。『大脱走』の鶏版という発想のようだが、随所に名作映画のパロディーが出てきて笑わせてくれるし、後半は『インディー・ジョーンズ』ばりのアクションが満喫できる。
◆ ストーリー
卵を産まなくなった鶏がどうなるか、前半で斧の恐怖を味わった彼女たち(と観客)は、「全員が脱走する」というジンジャーの計画に一縷の望みを託すが、脱走は悉く失敗に終る。そんなある日、空を飛んでやってきた雄鶏のロッキーを見て、「彼に飛び方を習い、柵を飛び超えよう」と彼女は皆を扇動するが、皆もロッキーも乗り気ではない。
それでも忍耐強い説得で全員の気持ちを高め、飛行訓練を繰り返すが、飼い主(人間)のミセス・トゥーディーは全ニワトリをチキンパイにして売りさばこうとパイマシンを購入する。しかも、訓練が最終段階に差し掛かった頃、怪我が治ったはずのロッキーが突然失踪してしまった。彼が隠していた秘密は「空飛ぶニワトリ」のポスターの破れた部分にあったのだ。
真相を知って、全員が希望を失いかける、が、それでもジンジャーは最後の大計画を打ち立て、全員の脱出を計るのだった。その計画とは・・・
◆ うがちすぎる感想ですが
私の悪い癖かも知れないが、映画やTVドラマを見ると、必ず悪役に肩入れしてしまうのだ。例えば時代劇なら悪代官の“不埒な悪行三昧”に同感するし、シンデレラでも小さな靴に合わせて足を切る義姉たちに同情したり、ドキンちゃんにそそのかされるバイキンマンや、ハイジを厳しくしつけるロッテンマイヤー、自己主張の強いオルソン夫人・・・
どうも性格的には弁護士が向いてるらしいが、今回の弁護人はミセス・トゥイーディーだ。
彼女は“贅沢をしたい”という欲望が大きく、卵を産まなくなった鶏は即刻首を落として食べる。その上、手っ取り早く儲けるため餌を大量に与え、チキンパイにして売りさばこうとしていた。
しかしそうした彼女を「全く血も涙もない奴だ!」とお叱りのあなた。卵を産まない鶏に「ただ飯」を食わせていたんでは、養鶏場は潰れてしまうんです。余計な経費は削減するのが鉄則。誰もこれを責めることはできまい。乳の出が悪いヤギのシロが殺されかけたのと同じである。
ただ、チキンパイ製造機、あれはイカン。あの巨大な製造機をいくらで買ったか知れないが、養鶏場にいる鶏全部をチキンパイにしたって、とても元を取ることはできないだろう。これでは贅沢するどころか、いずれ破産するに決っている。こんなずさんな経営はとても容認できないから、今回の弁護はうまくいきそうにない。
また、ハン・ソロのような無頼漢が最後に助けに来るパターンは映画の定番だが、今回のロッキー君は、ずっと皆をだまし続けていながら、最後にちょっと助太刀しただけで、新天地において雌鳥たちのヒーローとして「両手に余る花」を獲得できたのだから、ちょっと美味しすぎる役どころである(でもちょっとタイヘンかな)。
◆ 絶え間ない動き
毎度ふざけた感想で自己嫌悪に陥りそうだが、ジンジャーたちの活躍に心躍らせながらも、私は昨日食べた「親子丼」が美味かったことを忘れてはいないのだ。というのもこの映画、イギリス文化のもつブラックな笑いがもう少し強く出ているかと期待していたのに、ちょっとアメリカ的万人向けの傾向が無きにしもあらずで、その部分だけが悔しいのである。
また、これは欧米のアニメーション全般に言えるのだが、間の取り方に注意がいっていない。常にキャラクターを動かす努力は賞讃に値するが、それでも、もう少し静止している場面が欲しい。そうすると、もう少し動きにメリハリがつくはずである。
それでも子供向け映画としての出来は最高で、特に口の動きは芸術的。ここまで粘土に生命を吹き込むことができるアードマン社の動向には、今後も注目が集まるだろう。