人の品格はその読む書物によって判断しうること恰もその交わる友によって判断しうる如し。[スマイルス]
という言は知っているが・・・
この本は『探偵! ナイトスクープ』という番組が発端となって調査され、まとめられたものである。きっかけも表題もまさにバカバカしいものだが、調査が進むにつて、方言の伝播法則を裏づけ、学術的な評価に値する内容となっていくところが素晴らしい。
上岡龍太郎が探偵局長だった頃、番組としてはかなり最初期だが、「・・・東京と大阪の間に、『アホ』と『バカ』の境界線があるのではないか?・・・東京からどこまでが『バカ』で、どこからが『アホ』なのか調べてください」という依頼が番組に寄せられる。
さっそく東京から調査に乗り出した北野誠探偵だったが、名古屋駅で中日ドラゴンズ・ファンが発した「タワケ」という言葉によって番組は深みにはまる。結局「アホ」と「タワケ」の境界線は、岐阜県不破郡関ケ原町大字関ケ原・西今須にある、という報告がなされたが、その後も「九州でも『バカ』と言う」と、衝撃の事実が判明したため、調査を続行、全国的な規模で罵倒語が調査されることになった。
その後、調査で分かったことは――
などであり、途中、金沢大学主催の学会でその成果が発表されるにまで至る。
こうしてまとめられた「アホ・バカ方言全国語彙一覧」だが、私の見るところ、愛知県では「トロクシャー」や「オタンチン」「アンポンタン」まで載っているところをから察すると、全国の罵倒語がほぼ網羅されているのだろう。
ところで、こうした学術的?な研究とは話が違うが、実は僧侶として個人的に困ったことがある。
それは経典を漢音(普段は呉音)で読むとき(例えば「阿弥陀経作法」など)、仏弟子の「摩訶目ケン連・摩訶迦葉・摩訶迦旃延・摩訶倶チ羅」を「バカボッケンレン・バカカショウ・バカキャセンネン・バカクチラ」と読むのだが、どうしても<バカが並んでるー>という邪念が入ってしまうのだ。ちなみにこの「摩訶」は「マハー」の音写で「偉大な」とか尊称として冠する言葉だが、そうした尊敬の想いが沸き起こる前に邪念が入り、笑いを禁じえない。
考えてみれば、赤塚不二夫の漫画でお馴染の「バカボン」も「釈尊」を意味するらしいし、かつて「平成の大馬鹿門」という名を付けた門が浄土宗のとある大学に拒否された、などということもあり、どうも仏教とバカは切っても切れない関係にあるようだ。
ちなみに、現代における罵倒語の中には、あきらかな差別語もあるから、言い回しは勿論、そうした言葉の裏に隠された差別心に敏感になり、人を傷つけたり踏みつけることの無いよう注意すべきである。
つまり罵倒するのは行為に対してのみ許されるべきで、個人や特定の範疇にいる人々の存在(人格)をけなすのは控えるのが原則だろう。