【本・映画等の紹介、評論】
14ひきのひっこし
いわむらかずお(岩村和朗)著/童心社
子ども文化に苦言を呈する
子ども文化華やかなりし現代日本であるが、現状について私はどうしてもひとこと言いたいことがある。
たかが子ども文化であるが、幼い頃に見聞きしたことはその人の一生の感性を決定する可能性が高く、おろそかにできない。問題は作り手の意識とその環境であるが、まずそうした事柄に注目して、子ども文化を勝手に分類してみた。
全く個人的な分類法だが、その意図は読んで頂けばわかる。また、後半は「14ひきの」シリーズを紹介して、その内容の素晴らしさを伝えたい。
◆ 子ども文化を勝手に分類
- 「面白さ優先」の文化
- 子どもが飛びついてくる要素を集め、とにかく面白さを追求し、教育的配慮は二の次か付けたし程度の文化。
この文化は、ある意味日本のお家芸で、特にアニメや漫画・TVゲームでは世界を席巻している。時としてその非教育的な内容が取りざたされる事もあるが、かつてのドリフターズがそうであったように、今から見れば毒にも薬にもならない代物。現代では現実の事件の方が余程毒を持っている。ただ、この文化は「金儲け優先」に走る傾向があり、結果としてマンネリ化を生むのが欠点。
- 「教育優先」の文化
- 教育的という印籠をかざして、大人なら見向きもしない二流三流の退屈なものを押し付け、結局、子どもの才能の芽をつみとる文化。 例:教科書、参考書、ピアノの教本、受験用ドリル等。
教育的でもたまには子どもの興味を引くものが作られる場合もあるが、そうした創作が出来る人は大抵子ども向き以外の仕事でも成功を収めている。ピアノの教本でも、練習曲しか残せないような作曲家の作品をいくら弾いても、ロボットのように指が動くようになるだけで音楽に対する苦痛が生まれ才能は逆に削がれてしまう。教科書も同様で、何でここまで面白くないものが書けるのか本当に不思議でしょうがない。
- 「創造性優先」の文化
- 作り手の創作意欲を限りなく発揮し、結果として子どもは勿論、大人にも感動を与えうる文化。このような文化はなかなか成立しにくい。受け手が子どもであることを下手に意識すると、創作に甘えが生じるからだ。子どもの心をくむことが、単にレベルを下げるだけの結果になりかねないからである。一般的に良質の子ども文化として世に出回っているものも、実はレベルの低い作品というものもある。
その他「大人の甘い幻想の押し付け(例:ディズニー映画)」「大人文化の子ども化(例:童話、童謡)」「洗脳文化(例:権力者の神話化)」等、勝手に分類を試み、苦言を呈してみたが、とにかく、大人たちの都合のいい世界を押し付けたり、大上段に構えて子どもからやる気を無くさせ「こんなことも理解できないのか!」と叱ることが教育だと思っている連中が多すぎるのだ。
子ども文化について私の意見を書かせてもらったが、おそらく反論もあるだろうから、それを楽しみに待っている。
◆ 「14ひきの」シリーズ
さて、以上のような意地の悪い分類はここまでにして、今回取り上げたいのは『14ひきの』シリーズである。これはまさに一級品の名作絵本であり、子どもは勿論、大人もこの世界にはまること請け合い。「絵本なんて子どもの読むもの」という概念をはるかに超えて、良質で創造性に富んだ世界を提示してくれる。このシリーズは全10巻、世界中でベストセラーとなっている。
- 14ひきのひっこし
- 「おとうさん おかあさん おじいさん おばあさん そしてきょうだい10ぴき。ぼくらは みんなで 14ひき かぞく」が引越しをするところからストーリーが展開する。なぜ彼らねずみたちが引越しをしなくてはならなくなったのか。理由は最初の絵に表れているから注意してほしい。
山越え川越え冒険の果て「やっとみつけた すてきな ねっこ」。木の内側に素敵な部屋を沢山造り、川から水を引く。食料も冬に備えて集めてきた。この段階までくると「オラもこの家に住みたい」と、思わず夢見心地にさせてくれる。生活するって、こういうことなんだ!
- 14ひきのあさごはん
- 朝起きて、顔を洗って、野イチゴをつんで、パンを焼いて、スープを作り、朝ご飯を食べる。ただそれだけのことだけど、見ていてうれしくなる。アウトドア生活にもつながる楽しさがここにはある。
- 14ひきのやまいも
- 山芋ほりに出かける14ひきだが、とにかく秋の景色が美しい。大きな山芋を見つけ、折らないように掘り出すと、夕飯は山芋中心のメニュー。「オラも急にとろろごはんが食べたくなった」
- 14ひきのさむいふゆ
- 森に冬がやってきたが、備えは充分。双六のようなゲームとそりで遊ぶ子どもたち。大きな雪だるまもねずみ形なのがいい。
- 14ひきのぴくにっく
- 春になると森もいっせいに「いのち」の息吹を外に開げる。広々とした野原へピクニックに出かけた14ひき。おたのしみはやっぱりお弁当だ。
- 14ひきのおつきみ
- みんなみんな木の上に登ってゆく。まだ登ってゆく。まだまだ登ってゆく。そんな目まいがしそうな程高いところへ足場を組んで何を造っているのかと思ったら、お月見台だって? こんな贅沢なお月見を一度はしてみたいものだ。
- 14ひきのせんたく
- 梅雨が明けたのでみんなで川へ洗濯に出かける。ここの一家は本当に働き者ばかりで、すぐに洗いが終わり、初夏の太陽の下、洗濯物がいっせいに干される。簡易ハンモックもいい。
- 14ひきのあきまつり
- 秋の森でかくれんぼをしていると、ろっくんが居なくなった。森の奥まで探しに行くと、そこでは森中の生き物が秋祭りをしていた。かえるにトカゲ、カタツムリにバッタ、くりたけにどんぐり。みんな神輿をかついでた。しかしこれ、絵だからきれいだけど、実写だったら不気味だよ。
- 14ひきのこもりうた
- ここの家の奥には何と風呂場があった。外から水も取り入れられる素敵なお風呂。出たら早く着替えて、大人は子ども達を寝かせるために本を読み、子守唄を歌う。
- 14ひきのかぼちゃ
- かぼちゃの種を植えて、育ってゆく過程が楽しい。なるほど、かぼちゃの実というのはこんな風に大きくなるんだ。で、やっぱり最後は一家そろって夕飯を食べる。「オラ今晩はかぼちゃコロッケが食べたくなったぞ」
シリーズ全体に言えることは、自然の景色が見事に美しいこと。まるで一枚一枚日本画の名作を見ているようである。また、ねずみくんたちの動きに細やかな情愛が感じられ、心地よい生活感が漂っている。そして、働いて・食べて・暮らしをたててゆくことが、こんなにも素敵なことなのだと、改めて感じさせてくれる絵本である。
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