江戸時代と違い、現代人には職業選択の自由がある。ただし、これは法律上の自由であって、実際には、自分のおかれた境遇や、得られた情報に左右されて、本当の意味での自由が得られているわけではない。また、今の子どもたちにとっては、大人になって職業を持つということが、現在の勉強や自分の興味の延長にあるというイメージを持つことは困難なことだろう。
この『13歳のハローワーク』ではその問題を時代背景のギャップに見出している。
いい大学に行って、いい会社や官庁に入ればそれで安心、という時代が終わろうとしています。それでも、多くの学校の先生や親は、「勉強していい学校に行き、いい会社に入りなさい」と言うと思います。勉強していい学校に行き、いい会社に入っても安心なんかできないのに、どうして多くの教師や親がそういうことを言うのでしょうか。それは、多くの教師や親が、どう生きればいいのかを知らないからです。勉強していい学校に行き、いい会社に入るという生き方がすべてだったので、そのほかの生き方がわからないのです。
確かに、高度成長社会は人手不足であり、その中でいわゆる一流と呼ばれる会社に入ることは、収入面が約束されることであり、名誉であるとも考えられていた。このことが子どもには勉強を促し、倫理的な規範を守らせる指針にもなっていただろう。
こういった基本的な社会構造が破れた今、職業選択は、他人からの評価以上に、「好き」とか「興味がある」ということから考えるべきであり、その方がメリットは大きいのではないか、と主張する。
子どもがいつかは大人になり、何らかの方法で生活の糧を得なければならないとしたら、できれば嫌いなことをいやいやながらやるよりも、好きで好きでしょうがないことをやるほうがいいに決まっています。
<中略>
好奇心を失ってしまうと、世界を知ろうとするエネルギーも一緒に失われます。この本は、今の好奇心を、将来の仕事に結びつけるための、選択肢が紹介してあります。この本を眺めていると、この世の中には実にいろいろな職業・仕事があることがわかると思います。繰り返しますが、自分に向いた仕事は決して辛いものではありませんし、どんな仕事も、それが自分に向いたものであれば案外面白いのです。
「自分は何が好き?」と考えると、職業に興味を持つし、将来が開けたようで元気が出てくる。他人からは「大変困難な仕事」と見られていても、好きであれば力強く努力できるのだろう。これを堂々と述べられるというのは、ある意味幸せな時代なのかもしれない。
この書では、このような「好き」という興味にあわせて、具体的な職業を紹介している。
例えば、「人体・遺伝が好き」な人には「医師」や「看護師」・「医療事務員」・「移植コーディネーター」など。また「人の役に立つのが好き」な人には「政治家」や「弁護士」・「教師」・「レスキュー隊員」・「ソーシャルワーカー」などが紹介されている。
中には、一般には知られていない職業、例えば「暗号作成者」(算数・数学が好き)・「テープリライター」(文章が好き)・「スーパーカー専門整備士」(乗り物が好き)・「テレフォンオペレーター」(Special Chapter)や、普通の小中学生には紹介しない職業、例えば「ストリッパー」(ダンスが好き)・「お笑いタレント」(テレビやラジオが好き)・「パチプロ」(賭け事や勝負事が好き)・「ホスト」(Special Chapter)などもあって、痒いところに手が届く(?)つくりになっている。
ただし、著者自身の主観や熱意の片寄りは指摘しなければならないだろう。「画家」や「作家」に関しては、経験上からずばりと指摘があるが、他の職業に関しては一般論に留まっていたり、職業上のリスクが書かれていない箇所もある。ただし、取材は綿密にしてあるので、13歳に勧める本としては役割を充分満たしているだろう。
また、最後には「特別篇」まであって、実に面倒見がよい。
おそらく小中学生の間(特に男子)では「テレビゲームが好き」という人は圧倒的に多いだろう。この件に関しては――
テレビゲームが好きだからといって、ゲーム作家やゲームプログラマーになれるわけではない。
と指摘があり、「アニメが好き」や「漫画が好き」・「カラオケが好き」などでも同様の助言がある。
また、「エッチなことが好き」の中で、「からだを売る」という風俗の仕事については、多くのリスクを挙げた上、最も大きいリスクとして――
自分もなかなかやるなと思ったり、自分も捨てたものではないと思える、それが仕事の重要なところなのだが、からだを売るというビジネスでそういった充足感、自信、誇り、達成感を持つことは非常にむずかしい。と忠告しているが、これは言い得て妙である。「充足感、自信、誇り、達成感を持つこと」の重要性は、あらゆる職業に通じるからだ。
さらに、既に職業に就いている人にとっては、自分の職業がどう評価されているか気になるところ。自身の職業(僧侶)に関する記述には少し異論もあるが、13歳が得ておく情報としては充分であろう。ただし好きなことだけやって世渡りしていると、どこかで袋小路に迷うよ≠ニ忠告はしておきたい。
大人の皆さんもぜひ一度ご確認を。