誰が言い出したか知らないが、「犬は飼い主によく似る」と聞く。確かに誰でも思い当たる節があるだろう。
勝手な想像かも知れないが、周囲との濃密な関係の上に生活している犬たちにとって、飼い主の表情の一つ一つが重要で、それを読み取っているうちに犬自身の振る舞いにも影響を与えるのだろう。このあたり猫との違いは大きいはずだ。
◆ 床下の子犬
私が中学生になりたての頃、寺に雌犬が迷い込んできて、仏像が安置されている内陣の床下で子犬を産んだことがあった。夜になると「キュン、キュン」と漏れてくる か細い声で出産が知れたのだが、子犬の健康状態が心配になってきた。そこで早速、友達と即席のレスキュー隊を編成し、本堂の畳をはがして潜り込んだのだが、寺の床下というのは、思いのほか複雑になっていて、容易に子犬の場所までたどり着けない。
建築的には「頑丈」ということだからいいし、子犬の出産・育児の場所としても、「外敵から守る」という意味では適所だろう。しかしそれはそのまま救出を困難にすることを意味している。細い隙間を何度も抜けていくうち、自分達の帰還まで心細くなってきた頃、ようやく子犬に手が届くところまでやってきた。しかしどうしても子犬を隙間から助け出せず、「こうなったら穴を開けよう」と、のこぎりでギコギコやり始めた時、幸い別のルートが見つかり、直接抱きかかえて外へ連れ出すことが出来た。
犬達のおかげで、寺の床下が重厚な造りであることが認識できたが、これは当時の私がやせていたため可能だった出来事である。
◆ 同調する人と犬
助け出しされたうち2匹は近所にもらわれていったが、最後まで残った子犬を寺で飼うことにした。しかし選択に余るくらいだから気が弱く、先に飼っていた鶏にさえ追いかけられて逃げ回っている有様である。やせこけていて、ひいき目に見ても貧相だったが、私は妙にその子が気になっていたので、残ってくれて内心嬉しかったのを思い出す。
嬉しかったのだから優しく育てればいいのだが、そうはいかない。何しろ中学生である。
散歩に連れて行った先で遊びに夢中になり、忘れて帰ったら門で待っていた、とか、数キロのランニングに無理やりつき合わせてダウンさせる等々、詳細は書けないようなことも散々やったが、それでも可愛がっていたつもりなのだ。許せペス。
そんなペスも、トップブリーダー非推薦「家族の残り物」を日夜与え続けているうち次第に大きくなっていった。特に体重の伸びはいちじるしく、散歩に連れて行っても「へー、肥えとるねー」と、ラジオ体操をしてるおっさんに声をかけられる程だ。“同じ物を食っとるのに、何でこいつだけ太るのかな?”と、疑問を抱いていたが、その疑問はすぐに解けた。
「お前、この頃太ったなー」と、友達に言われた時には、既に既製服が身に合わなかった。あばら骨が透けて見えるほどだった胸も、えぐれ気味だった腹も、次第に肉がつき、段がつき始めていた。私とペスは性格も体型も日々ふてぶてしくなっていったのである。
やはり犬と飼い主は、どこか深いところで繋がっているような気がする。
[Shinsui]