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初期仏教教団の戒律について
― 釈尊在世当時の戒律を全て掲載 ―
浄土の風だより【仏教資料集】
釈尊在世当時の戒律を掲載します。
具足戒を受けて正式なビクシュ(出家)となるためには、250の戒律(パーリ文では227)を守らなければならない、とされ、女性の正式な出家者ビクシュニーは300以上の戒律がありました。
釈尊(シッダールタ)は入滅に先立ち、「もし皆が希望するなら、細かい戒律は廃止
してもよい」と、遺言されたのですが、長老の意見ですべて存続されることになりました。このことが後々論争に発展し、教団の分裂原因となります。
これらは出家者に対してですが、一般の信者にも規定されたのは以下の「五戒」です。
- 不殺生戒:殺生をしない
- 不偸盗戒[:盗みをしない
- 不邪婬戒[:(浮気等の)邪[よこしま]で淫[みだ]らな性交をしない
- 不妄語戒[:嘘をつかない
- 不飲酒戒[:酒を飲まない
また、一日一夜を限って在家信者が守る八つの戒めが「八戒」(八斎戒・八戒斎・八支斎・八関斎戒・仏法斎・八分戒・一日戒・近住戒・近住律儀ともいう)で、これは六斎日(毎月陰暦の8日,14日,15日,23日,29日,30日/ウポーサタの日)に出家生活を一日だけ保つ形をとっています。具体的には先の「五戒」の「不邪婬戒」を「不婬戒」に変え、衣食住の戒めを加えたものです。
- 不殺生戒[:殺生をしない
- 不偸盗戒[:盗みをしない
- 不婬戒[(離非梵行戒):一昼夜は性交を断つ
- 不妄語戒[:嘘をつかない
- 不飲酒戒[:酒を飲まない
- 離眠坐高広厳麗牀座[:高座に坐り好床に臥さない。
- 離塗飾香鬘[ 離舞歌観聴[:身に香油を塗らず装身具をつけず、演劇などの催し物を見ない
- 離非時食戒[:正午を過ぎてから食事をとらない
その他、初期仏教教団の戒律には、「十戒」:20歳以下の出家者のための戒や、「六法戒」:20歳以下の出家女性(沙弥尼)が具足戒(波羅提木叉など出家修行者の戒律)を受けるまでの六法、などがあります。大乗ではこれら「五戒」「八戒」「十戒」「具足戒」(五八十具と略称)全てを「声聞戒」と称し、別に「菩薩戒・大乗戒」を立てます。
なお「戒」は規律を守ろうとする自発的な心のはたらきであり、「律」は他律的な規範をいいます。
- ここに四波羅夷法は誦出される。(パーラージカ 波羅夷 サンガ追放)
- 婬戒: いずれの比丘といえども、諸比丘の学と戒とを具足しつつ、学を棄てずして、(また)力弱きことを明言せずして、婬法を実行するならば、乃至、畜生とするに至るまで、波羅夷にして、共に住すべからざるなり。
- 盗戒: いずれの比丘といえども、村落あるいは阿蘭若(原野)より、盗心にて、与えられざる物を取るならば、すなわち次のごとき与えられざる物を取る資格において、諸王が賊を捕らえて、あるいは殺し、あるいは縛し、あるいは追放しよう。「汝は賊である。汝は愚者である。汝は癡者である。汝は盗人である」と。かかる仕方で、比丘が与えられざる物を取るならば、これもまた波羅夷にして、共に住すべからざるなり。
- 絶人命戒: いずれの比丘といえども、故意に人体の生命を奪うならば、あるいはそのために刀を持つ者を求め、あるいは死の美を讃嘆し、あるいは死を勧めて、「拙、男子、この悪しく苦しき生は、汝にとって何の用ぞ。死は、汝にとって生より勝るべし」と、心に思惟し、心に思念し、種々の方便をもって死の美を讃嘆し、あるいは死を勧めるならば、これはまた波羅夷にして、共に住すべからざるなり。
- 妄説得上人法戒(大妄語戒): いずれの比丘といえども、自ら証知せずして、上人法を己に関係せしめ、関係せしめ、完全なる聖なる知・見ありと主張せん、(すなわち)「このごとく我は知り、このごとく我は見る」と。(しかして)彼はそれより後時において、あるいは追求され、あるいは追求されずして、罪を浄化することを欲して、次のごとく説かん、(すなわち)「友よ、我れは知らざることを、このごとく我は知ると言い、見ざることを、我は見ると言い、空虚なる妄語を無益に語れり」と。(かく言うならば)増上慢を除いて、これもまた波羅夷にして、共に住すべからざるなり、と。
長老たちよ、四波羅夷法はすでに誦出された。もし比丘、それらの中のいずれか一つでも犯さば、諸比丘と共に住することを得ず。以前(出家前)と同じく、今後も同様なり。波羅夷となりて、共住すべからず。
この点について、長老たちに問わん。この点について清浄なりや。
再び問わん。この点について清浄なりや。
三たび問わん。この点について清浄なりや。
長老たちはこの点につきて清浄なり。それ故に沈黙す。我はこのごとくこれを受持す。
- 長老たちよ、またこれらの十三僧残法が誦出される。(サンガーディセーサ 僧伽婆尸沙法)
- 故出精戒: 故意に精液を泄らせば、夢中を除いて僧残である。
- 触女身戒: いずれの比丘といえども、欲情に駆られて、転変した心をもって、女人とともに身体の接触に従うならば、あるいは手を捉え、あるいは編髪を捉え、あるいはいずれかの身体の肢分を摩触するならば僧残である。
- 麁悪語戒: いずれの比丘といえども、欲情に駆られて、転変した心をもって、女人に麁悪語によって罵るならば、すなわち若い男が若い女に婬欲を伴える言葉をもって語るごとくに(語るならば)僧残である。
- 求婬欲供養戒: いずれの比丘といえども、欲情に駆られて、転変した心をもって、女人の面前で自己のために婬欲供養を称賛して説かん「妹よ、我れのごとき具戒者、善法具足者、梵行者を、この法によりて供養する者は、供養中の第一なり」とて、婬欲に結合することによりて説くならば、僧残である。
- 媒嫁戒: いずれの比丘といえども、男女の媒介をなすならば、(すなわち)男子の意を女人に伝え、あるいは女人の意を男子に伝え、結婚、あるいは私通を(成ぜしめるならば)乃至、暫時のものであっても、僧残である。
- 無主作房戒: もし比丘、自ら乞いて、房舎を作るに、施主なくして、自己のためならば、量に従って作るべし。ここに量とは長さ仏タク手による十二タク手、横幅内法にて七タク手なり。諸比丘は場所を示すために案内されるべきである。それらの比丘によって、無難処、有行処(交通の便利な場所)が指示されるべきである。若し比丘が、無難処、有行処に自ら請いて房舎を作り、あるいは場所を指示するために諸比丘を案内せず、あるいは量を超えるならば僧残である。
- 有主作精舎戒: もし比丘、大精舎を作らんとするに、有主にして、自のためにす。諸比丘は場所を示すために案内されるべきである。それらの比丘によって、無難処、有行処である場所が指示されるべきである。もし比丘が、有難処、無行処の場所に大精舎を作り、あるいは場所を指示するために諸比丘をしないならば、僧残である。
- 無根謗戒: いずれの比丘といえども、他の比丘を、悪意と瞋り、不満よりして、無根の波羅夷法によりて誹謗せん。「おそらく、彼をこの梵行より堕落せしめん」として。その比丘、後時において、あるいは詰問せられ、あるいは詰問されずして「彼の事は無根にして瞋恚に拠るなり」というならば、僧残である。
- 仮根謗戒: いずれの比丘といえども、他の比丘を、悪意と、瞋り、不満よりして、別の部類に属する問題の、何らかの類似せるのみの点を取りて、波羅夷法によって誹謗せん。「おそらく、彼をこの梵行より堕落せしめえん」とて。その比丘、後時において、あるいは詰問され、あるいは詰問されずして、「彼の問題は別の部類に属するものでありある種の類似せるのみの点が取り上げられたのである。比丘は瞋恚に拠るなり」というならば僧残である。
- 破僧違諌戒: いずれの比丘といえども、和合僧を破らんと企て、あるいは破僧に導く事件を取り上げて、対抗して立つならば、その比丘は諸比丘によりてこのごとく言わるべきなり。「長老よ、和合僧を破らんと企て、あるいは破僧に導く事件を取り上げて対抗して立つなかれ。長老よ、僧伽と和合すべし。如何んとなれば僧伽は和合し、相歓び、諍いなく、同一説戒にて、安穏に住すべきものなり」と。このごとくその比丘は、諸比丘によりて語られつつも、なお対抗するならば、その比丘は諸比丘によりて、三度まで諌告さるべし、それを捨てさせるために、三度までも諌告されて、それを捨つれば可なり。もし捨てざれば僧残なり。
- 助破僧違諌戒: もし彼の比丘に伴党ありて、分派に味方し、一人、あるいは二人、あるいは三人ならんに、それらの比丘、次のごとく言わん。「長老たちよ、彼の比丘に何事も言うことなかれ。彼の比丘は法語者なり、彼の比丘は律語者なり彼の比丘は我れらの欲し愛好するところを取りて語る。我らの(欲することを)知りて話す。そは我らに忍可せられるなり」と。その比丘らは、比丘たちによって次のごとく言わるべきなり。「長老たちよ、そのように言うことなかれ。彼の比丘は彼の比丘は法語者にあらず、彼の比丘は律語者にあらず。長老たちにとりて破僧は好まるべきにあらず。長老たちは僧伽と和合すべきなり。何となれば僧伽は和合し、相喜び、諍いなく、同一説戒にて、安楽に住するなり」と。彼の比丘らは比丘たちによってこのごとく言われつつも、なお固執するならば、その比丘らは、比丘たちによってそを捨てしめるために、三度まで諌告さるべし。三度まで諌告されて、そを捨てれば可なり。もし捨てざれば僧残なり。
- 悪性拒僧違諌戒: 若し比丘、悪口性にて、説戒に含まれる学処において、比丘たちによりて如法に語られつつあるのに、自己を「共に語るべからざるもの」となして(言わく)「長老たちよ、我れに、もしは好、もしは悪なる何事をも語らず、長老たちよ、我れに語ることを止めよ」と。彼の比丘は比丘たちによりて次のごとく言わるべし。「長老よ、自己を<共に語るべからざるもの>となすことなかれ。長老よ、自己を<共に語りうるもの>となせ。長老もまた、比丘たちに如法に語るべし。比丘たちもまた、長老に如何に語る。このごとくにして実にこの世尊の衆会は、相互の説示により、相互の協力によりて繁栄するなり」と。彼の比丘は、このごとく比丘たちによりて言われて、なお固守するならば、その比丘は比丘たちによりて、それを捨てしむるために三度まで諌告さるべし。三度まで諌告されて、そを捨つれば可なり。もし捨てざれば僧残なり。
- 汚家擯謗違諌戒: もし比丘、何らかの村、あるいは町に依止して住し、汚家・悪行をなし、彼の悪行が見られ、かつ聞かれ、また彼によりて汚されし俗家もまた見られ、かつ聞かれるところなり。(その時)彼の比丘は、比丘らによりて、次のごとく言わるべきである。「長老よ、(汝は)俗家を汚し、悪行をなす。長老の悪行は見られ、かつ聞かれるなり。また長老によりて汚されし俗家も見られ、かつ聞かれるなり。長老はこの住処より退去すべきである。汝にとって、この住処に住するの要なし」と。
彼の比丘は、比丘たちによりてこのごとく言われつつも、その諸比丘に次のごとく言わん。「比丘らは欲に随い、瞋に随い、癡に随い、に怖随う。このごとき罪によりて、ある者は駆出され、あるものは駆出されず」と。
彼の比丘は、比丘たちによりて、次のごとく言われるべきである「長老よ、かく言うことなかれ。諸比丘らは欲に随うものに非ず、瞋に随うものに非ず、癡に随うものに非ず、怖に随うものに非ず。長老は俗家を汚し、悪行を行ず。長老の悪行は見られ、かつ聞かれるなり。長老によりて汚された俗家も見られ、かつ聞かれるなり。長老はこの住処より退去すべし。汝にとってこの住処は何の要があろうぞ」と。
彼の比丘は、諸比丘によりてこのごとく言われつつも、なお固守するならば、彼の比丘は諸比丘によりて、三度まで諌告さるべし。その事を捨てんがために、三度まで諌告されつつ、その事を捨てれば善し。もし捨てざれば僧残である。
諸長老、十三僧残法は誦出さられたり。(初めの)九は初にして罪となり、(後の)四は三諌に至る。比丘はこれらのいずれか一を犯し、知りて覆蔵せば、その日数だけ、その比丘は欲せざるも別住を行じおわって、比丘はさらに六夜の比丘のマーナッタを実行すべし。マーナッタを行ぜし比丘は、そこに二十衆の比丘僧伽があれば、出罪さるべきである。もし二十衆に一人にても少なき比丘僧伽がその比丘を出罪させるならば、その比丘は出罪されず。そしてそれらの比丘は呵責さるべきである。これこの時の正しき作法なり。
いま諸大徳に問わん。この点について清浄なりや。
二度問わん。この点について清浄なりや。
三度問わん。この点について清浄なりや。
この点について諸大徳は清浄なり。沈黙するが故に。我れ、そをこのごとくこれを受持す。
僧残の誦出竟る。
戒経は正確を期すため、長文となっていまして、直訳ではすぐに意味が取れない条項もあります。そこで以下に各条文の要約を試みてみました。「波羅夷法」と「十三僧残法」で直訳と要約を比較していただければ、要約の方向性が理解していただけると思います。
- ここに四波羅夷法は誦出される。(パーラージカ 波羅夷 サンガ追放)
- 婬戒: 婬らな行為をする。
【注:婬法の相手は、女性、男性、両性具有者、性的不能力者、畜生、そして想像上のそれらの者を含んでいる。また女性の三道(大便道、小便道、口)において婬法が適用される】
- 盗戒: 他人の所有物を盗む。
【注:タイの戒律では「その品物の値は5マーサカ(1バーツに相当)あるいは5マーサカ以上のものである」と制定されている】
- 絶人命戒: 故意に人の生命を奪う。他人に委託したり自殺を促した場合も含む。
【注:堕胎も同罪であり、堕胎を強要、誘導することは波羅夷にあたる】
- 妄説得上人法戒(大妄語戒): 上人法を自ら証知していないのに、悟ったと言う。
【注:「増上慢」つまり、悟ったと誤解して言った場合は、波羅夷にはならない】
もし比丘、それらの中のいずれか一つでも犯さば、波羅夷となりて、僧伽を永久追放となる。
【注:婬戒は例外もある】
- 長老たちよ、またこれらの十三僧残法が誦出される。(サンガーディセーサ 僧伽婆尸沙法)
- 故出精戒: 自慰行為をする、ただし夢中を除く。
- 触女身戒: 欲情に駆られて女人の身体に触れる。髪も含む。
- 麁悪語戒: 欲情に駆られて、女人に卑猥な言葉をもって語る。
- 求婬欲供養戒: 欲情に駆られて、女人を誘惑し性的奉仕をせしめる。
- 媒嫁戒: 男女の結合の媒介をする。
【注:仏式結婚の司婚をするのはこれに当たらない。】
- 無主作房戒: 寄進者なく、自ら房舎を作る際は、諸比丘を案内し、決められた大きさにすること。【注:長さ約28.8尺=8.7m 横幅約16.8尺=5m強】 また無難処、有行処(交通の便利な場所)に作ること。しかしこれらに反する。【注:また所有者のない土地であることも条件】
- 有主作精舎戒: 寄進者があって、大精舎を作る際は、諸比丘を案内し、場所を示すこと。しかしこれに反する。
- 無根謗戒: 瞋恚をもって根拠の無い波羅夷法(僧伽を永久追放)をでっち上げて他の比丘を誹謗する。
- 仮根謗戒: 瞋恚をもって根拠の不十分な波羅夷法に結びつけて他の比丘を誹謗する。
- 破僧違諌戒: 僧伽の和合を破壊せんとする比丘に対して、諸比丘がこれを諌[イサ]める。三度忠告するが、その忠告にしたがわない。
【注:破僧は僧伽を分裂させることで、有名な提婆達多の事件が戒を定めた発端となったと考えられる】
- 助破僧違諌戒: 僧伽の和合を破壊せんとする勢力に同調する比丘に対して、諸比丘がこれを諌[イサ]める。三度忠告するが、その忠告にしたがわない。
- 悪性拒僧違諌戒: 戒について比丘たちが正しく語るのを受け付けない。これについて三度忠告するが、その忠告にしたがわない。
- 汚家擯謗違諌戒: 在家の村、町に出かけ、汚家・悪行をなす。これについて三度忠告するが、その忠告にしたがわない。
初めの九ヶ条は最初でも僧残となり、後の四ヶ条は三度目で僧残となる。その比丘は一時別居せしめ、その後六日間の懺悔法をし、二十人の比丘の承認を得て罪が許される。
- 諸大徳、今この不定法(アニヤタ)二条は誦出される。
- 屏処不定: 女人と二人、秘密で婬欲に適する場所で共に座っているのを、信頼できる優婆夷(比丘になる具足戒を受けていない出家者)が見つけ、波羅夷・僧残・波逸提の三法中のいずれかに該当すると僧伽に申し出る。もし本人が認めれば、いずれかによって処分される。認めない場合も、よく調べて相当の処分をする。この法は直ちには罪が決定しない。
- 露処不定: 秘密で婬欲に適する場所以外で、欲情に駆られて、女人に卑猥な言葉をもって語るのを、信頼できる優婆夷が見つけ、僧残・波逸提の二法中のいずれかに該当すると僧伽に申し出る。もし本人が認めれば、いずれかによって処分される。認めない場合も、よく調べて相当の処分をする。この法も直ちには罪が決定しない。
諸大徳、今この不定法二条は誦出された。
【注:不定法二条は、比丘の自言に重きを置く場合(パーリ律など)と、信頼できる優婆夷の告発に重きを置く立場(四分律・五分律)、また優婆夷の告発に重きを置きながら、比丘を厳しく追求する立場(僧祇律・十誦律・根本有部律)に分かれる】
- 諸大徳、今この三十条の捨堕法(ニッサギヤ・尼薩耆波逸提)は誦出せられる。
- 長衣過限戒: 十日以上余分な衣を持つ。
- 離三衣戒: 僧伽の許可なく、一夜といえども三衣(僧伽梨・鬱多羅僧・安陀会)を持たずに宿をとる。
- 月望衣戒: 衣用の布が布施された場合、速やかに衣を作ること。しかるに一ヶ月以上保持する。
- 使非親尼浣故衣戒: 親戚でない比丘尼に(自分の)汚した衣を洗わせたり、染めさせたり、打たせたり(アイロンがけのようなこと)する。
- 受非親尼衣戒: 親戚でない比丘尼の手から衣を受ける。交換する場合は除く。
- 従非親在家乞衣戒: 親戚でないウパーサカ(在家男性信者)ウパーシカー(在家女性信者)に衣を乞う。ただし盗難、遺失、の場合は除く。
【注:焼失、濡衣の場合も除くとする場合もある】
- 過量乞衣戒: 上記の比丘(衣を盗難、遺失した比丘)は、親戚でないウパーサカ、ウパーシカーに衣を乞うことができる。ただし内衣と外衣の二衣のみである。しかるにその限度を超える。
- 不受請前乞衣戒: 親戚でないウパーサカ、ウパーシカーが衣を布施をする際、前もって比丘が出向き、(高価で上質の)衣を注文する。
- 勧二家増衣価戒: 親戚でない二人のウパーサカ、ウパーシカーが衣を各自で用意し布施をする際、前もって比丘が出向き、二人の用意した衣を一つにして(より高価で上質の)衣を注文する。
- 過限索衣戒: 布施者が使者を送って、ある比丘を指定して衣料を送る際は、執事を介してなされる。ところが比丘が執事に二度三度と催促しても入手できない場合、六度まで沈黙して催促できるが、それ以上の催促をする。
(この場合は、施主に衣料を引き取ってもらうのが正しい)
- 雑絹絲作敷具戒: 絹糸を混ぜた毛氈[モウセン]で敷具(寝具・外套にもなる)を作らせる。
【注:絹糸を取るためには蚕繭を煮る(蛹を殺す)必要があるため】
- 純黒羊毛作敷具戒: 純黒羊毛の敷具を作らせる。
【注:純黒羊毛は高価で貴人の衣装であったり、また闇に紛れ婬欲をなす在家者が好んで着るため、これを戒めた】
- 雑色羊毛作敷具戒: 新しい敷具を作る際は、純黒の羊毛を二分の一、白色羊毛を四分の一、褐色の羊毛を四分の一にするべきである。しかるにそれを採用しない。
- 減六年作敷具戒: 新しい敷具を作ったら、六年間は使用すること。しかるに許可無く六年以内に捨てたり新調する。
- 不貼坐具戒: 新しい坐具、敷具を作る際は、古い敷具の周辺より1クゥーブの布を取って、好色を壊すため貼らねばならない。しかるにそれをしない。
- 自担羊毛過限戒: 旅の途中、羊毛の寄進があれば受けることができる。運搬者がないときは三由旬【注:推定30〜40km】までは自分で運ぶことができるが、これを過ぎる。
- 使非親尼染羊毛戒: 親戚でない比丘尼に羊毛を洗わせたり、染めさせたり、梳かせたりする。
- 受畜金銀戒: 金銀(貨幣)を取り、もしくは(人に)取らせ、置かれたものを受け取る。
【注:これは貨幣経済が発達した国や時代には、ほとんど不可能な戒律である。この戒をめぐって、仏滅約100年後、教団は上座部と大衆部に分裂する】
- 貿易金銀戒: 金銀の取り引き(金貸し)をする。
- 種々販売戒: 様々な利益を伴う売買をする。
- 畜長鉢過限戒: 余分な鉢を十日以上所持する。
- 乞鉢戒: 鉢に五個所以上の亀裂がないのに、新しい鉢を得る。
- 畜七日薬過限戒: 病気になった比丘の食べるべき熟酥・生酥・油・蜜・石蜜【注:おそらく、牛乳・バター・油・蜂蜜・氷砂糖】は七日間だけは保存し食べれば良い。しかるにそれを過ぎる。
- 預前受用雨浴衣戒: 熱季の残り一ヶ月で雨浴衣を求め、残り半月で用いるべきである。しかるにそれ以前に雨浴衣を求め、用いる。
- 奪衣戒: みずから他の比丘に衣を与えながら、後で怒り、奪い返したり、他人に奪わせる。
- 自乞縷使織師作衣戒: 自分から糸を乞い求め、それで織師に布を織らせる。
- 勧織師増縷戒: 親戚でないウパーサカ、ウパーシカーが、糸を織師に与え織ってもらい、特定の比丘に布施をする際、前もってその比丘が織師のもとへ出向き、上等の衣に仕上げるように報酬を与えるなどして、様々注文をつける。
- 急施衣受畜戒: 雨安吾が終わる日【注:7月15日の自恣日】の十日前以前に急な衣の布施があった場合、受け取って衣時(新調が認められる日)まで保管するべきである。しかるに、その期限を過ぎて保管する。
- 有難蘭若離衣戒: 雨安吾が終わりカッティカ月まで【注:7月16日〜8月15日。この期間は賊の横行する季節で、実際に比丘が襲われた事件があった】危険な場所で安吾を過ごした比丘は、三衣のうち一衣を民家に預けることができる。これは何らかの理由がある時で、六日を限って許される。しかるに、その期限を過ぎる。ただし僧伽の許可を得た場合は除く。
- 廻僧物入己戒: 僧伽に寄進される物であることを知っていながら、自分に寄進させる。
諸大徳、三十条の捨堕法(ニッサギヤ・尼薩耆波逸提)は誦出された。
捨堕法を犯した比丘は、まず罪に触れた物を捨てさせ(僧伽に提出)、懺悔を行う。その後捨てさせた物は比丘本人に返す。
- 諸大徳よ、いまこれらの九十二条の波逸提(パーチッティヤ)は誦出される。
- 小妄語戒: 故意に嘘をつく。
- 毀シ(=)語戒: 他比丘を侮辱する。
- 両舌戒: 他比丘をけしかけ、僧伽の和合を破る。
- 未受具戒人同誦戒: 具足戒を受けていない者と聖句を同誦する。
【注:混乱したり、騒がしくして他比丘の修行の邪魔になるためこの戒律がある。ただし交互に教法を誦すのは許されていた】
- 未受具戒人同宿過限戒: 具足戒を受けていない者と二夜以上同宿する。【注:後に三夜以上になった】
- 与女人共宿戒: 女人と同宿する。
- 与女人説法過限戒: 女人に五・六語を超えて説法する。ただし傍らに知り合いの男子がいる場合は除く。
- 実得上人法戒: 具足戒を受けていない者に対し、(自分は)上人法を得ていると語る。実際に得ていてもそう語るのは避ける。
【注:「上人法を得ている」と語ることで、在家者から余計に敬われ、布施を多く得ることになり、それが道心を失う結果となるため】
- 未受具戒人説麁罪戒: 僧伽の許可無く、他比丘の罪過を具足戒を受けていない者に告げ口する。
- 掘地戒: 地面を掘る。もしくは他人に掘らせる。
【注:大地の生命を傷付けることになるから】
- 伐草木戒: 草木を伐採する。もしくは他人に伐採させる。
- 異語悩他戒: 詭弁を用い、他を悩ませる。
【注:釈尊の出城に付き添った馭者の闡陀[チャンナ]が、そのことを自慢し、罪を犯しても尊大な態度で詭弁を用い、他比丘を悩ましたという】
- 嫌罵僧知事戒: 僧伽の知事(運営を任された者)を軽蔑し罵る。
- 露地敷僧物戒: 僧伽の寝台寝具、椅子、敷具、坐具などを露地に持ち出して使用し、そのまま放置する。
- 舎内敷僧物戒: 僧伽の精舎内で寝具を使用していながら、片付けたりその依頼をせずに立ち去る。
- 強敷臥具戒: 他比丘が臥具を敷いて寝ているところへ、強引に割り込んで自分の臥具を敷く。
- 索他出僧房戒: 他比丘を怒って房舎から追い出す。もしくは追い出さしめる。
【注:先輩比丘のいじめがこの戒律制定の原因】
- 坐脱脚床戒: 二階の房舎において、脚の抜けやすい床几や踏台に坐ったり寝たりする。
【注:房舎は簡単なつくりのため、床が壊れやすく、抜けた脚が下の比丘に当たり怪我をしたことがあった】
- 覆屋過限戒: 比丘が精舎を作る際、屋根を二重、三重より厚く覆う。
【注:重過ぎて家が崩れた。これもチャンナの犯した行為で戒律が制定された】
- 用虫水戒: 水に虫がいるのを知りながら、草や土に注ぐ【注:混ぜて工事に使う】。もしくは注がしめる。
- 非選而教尼戒: 僧伽に選ばれずに、比丘尼たちを教誡する。
- 与尼説法日暮戒: 僧伽に選ばれたとしても、日没を超えて比丘尼たちを教誡する。
- 比丘尼住処戒: 比丘尼の住居に出かけ、比丘尼たちを教誡する。ただし比丘尼が病気の時は除く。
- 譏教尼比丘戒: 比丘尼を教誡する比丘をいたずらに謗る。
- 与非親尼衣戒: 親戚でない比丘尼に自分の衣を与える。ただし、交換の場合を除く。
- 与非親尼作衣戒: 親戚でない比丘尼のために衣を作る。もしくは作らしめる。
- 与尼同行戒: 比丘尼と事前に約束し、共に旅をする。ただし(女性にとって)危険箇所を通る場合を除く。
- 与尼同船戒: 比丘尼と事前に約束し、同じ船に乗って航行する。ただし偶然の同船や、渡し舟の場合を除く。
- 受比丘尼讃歎食戒: 比丘尼の斡旋した食物の供養を受ける。ただし、先に在家者が計画した場合を除く。
- 独与尼秘密坐戒: 比丘尼と二人だけで秘密に坐す。
- 施一食処過受戒: 無病の比丘は、施食場所では一食のみを受けるべきである。しかるにそれを超える。
【注:美食の施食場所に執着しないように、この戒律が制定された】
- 別衆食戒: 別衆食(僧伽の中で四人以上の比丘が徒党を組んで食事の供養を受ける)をする。ただし、病時、施衣時、作衣時、道路行時(遠行時)、乗船時、大会時、沙門施食時を除く。
- 展転食戒: 二個所以上で会食を受ける。ただし、病時、施衣時、作衣時を除く。
- 受二三鉢食戒: 多量の餅、麦こがしを受ける場合、三鉢までにすべきであり、それは諸比丘とともに分けるべきである。しかるにこれを超え、また分けない。
- 足食戒: 一旦満足して食事を終えたのに、後で残食もしくは飲み物以外のものを口にする。
- 勧足食戒: 一旦満足して食事を終えた比丘に、後で残食もしくは飲み物以外のものを口にするよう勧める。
- 非時食戒: 非時(午後)に食事を取る。
【注:法事の食事を『お斎(おとき)』というのも、この『時』からくる】
- 食残宿食戒: 貯蔵した食物を食べる。
- 索美食戒: 病気でもないのに美食を求める。
- 不受食戒: 水と楊枝を除き、与えられた食物以外を口にする。
【注:例えば墓の供物など】
- 与外道女食戒: 裸形外道や、遍行外道男、あるいは遍行外道女に、手ずから食を与える。
- 駆出他比丘戒: 他比丘を誘って共に托鉢に行きながら、悪意をもって途中で無理やり送り返す。
- 食家強坐戒: 有食家(性交を望んでいる時の部屋)に無理に入り込み居座る。
【注:夫婦や恋人たち和合の邪魔をすること】
- 屏処女人坐戒: 女人とともに秘密に屏処(隠れた場所)に坐す。
【注:有食家と見る解釈もある】
- 独与女人坐戒: 女人と二人で(露処であっても)秘密に坐す。
- 不嘱他入村落戒: 食事の請待を受けた時、他比丘に留守中の依頼をせず、他の在家村落に出かける。ただし施衣時と作衣時を除く。
【注:施主がその比丘を待っていたため、他の比丘が食事を取れなかった事があった】
- 過受四月薬請戒: 雨季の四ヵ月に受ける薬の自恣請(在家信者からの布施)を限度を超えて受ける。
- 観軍戒: 用も無く、出征する軍隊を見に出かける。
【注:これは出征する軍隊の方が比丘を見るのを不吉としたため】
- 軍中過宿戒: 理由があって、部隊に行く時、軍中に三日を超えて宿をとる。
- 観軍陣戒: 軍中に宿をとる時、演習、列兵、軍陣、閲兵を見る。
【注:合戦を見る事を含む戒律もある】
- 飲酒戒: スラー・メーラヤ酒を飲む。
【注:スラー酒は、米、麦、餅等の穀物から作った酒。メーラヤ酒は、花、果実、蜜、甘蔗等の果樹から作った酒】
- 撃レキ(=)戒: 指で人を擽[くす]ぐる。 【注:くすぐり過ぎて死に至った事件があった】
- 水中戯戒: 水中で戯れる。
- 不受諌戒: 破戒をいさめられても、軽蔑し受け入れない。
- 恐怖比丘戒: 他比丘を恐怖せしむる。
- 露地燃火戒: 病気でもなく、理由もないのに、身を温めるため火を燃やす。
- 半月浴過戒: 半月毎の沐浴(風呂に入る)以外(以上)に沐浴する。ただし、二ヶ月半の暑時熱時、病時、労作時、行路時、風雨時を除く。
- 不壊色戒: 新しい衣を得た比丘は青色・泥色・黒色の、いずれかによって色を壊すべきである。しかし、それをしない。
- 浄施衣不語取戒: 他の比丘などに浄施(手続きして譲渡)した衣を、相手の了解を得ずに使用する。
- 隠匿他衣鉢戒: 戯れと言えども他比丘の衣鉢などを隠す。
- 奪畜生命戒: 故意に生物の生命を奪う。
- 飲虫水戒: 生物のいる水を、知っていながら受用(主に飲用)する。
- 発諍戒: 正しい手続きで裁決された争い事を、又むしかえして羯磨(僧伽の議事)にかける。
- 覆他麁罪戒: 他比丘の重罪(波羅夷罪・僧残罪)を知っていながら隠す。
- 未成年者受具足戒: 知っていながら未成年者に具足戒を授ける。
- 与賊期行戒: あらかじめ賊と約束して共に旅をする。
- 与女人期行戒: あらかじめ女人と約束して共に旅をする。
- 悪見違諌戒: 障道法(戒律)を軽んじる比丘に、諸比丘が三度いさめても改心しない。
- 共住挙人戒: 挙人(破戒により十八種の権利を剥奪された比丘)と共に生活する。
【注:十八種の権利を剥奪されるとは
- 人に具足戒を授けることができない。
- 人に依止を与えることができない。
- 沙弥を蓄えることができない。
- 比丘尼教誡の選を受けることができない。
- たとい選ばれても比丘尼を教誡してはならない。
- 僧伽より挙羯磨を受けたのと同じ罪を犯してはならない。
- 他の相似の罪を犯してはならない。
- これより悪しき罪を犯してはならない。
- 羯磨を罵ってはならない。
- 羯磨をなす比丘を罵ってはならない。
- 清浄比丘の布薩を遮してはならない。
- 自恣を遮してはならない。
- (他比丘と)共語してはならない。
- 教誡を与えてはならない。
- 許可を求めてはならない。
- 難じてはならない。
- 憶念せしめてはならない。
- 比丘等と争ってはならない。
という権利剥奪である】
- 共住擯沙弥戒: 悪見を捨てない沙弥を、弟子にする。
- 拒勧学戒: 戒律を破ったことを正しくいさめられながら、「戒律に堪能な比丘に質問するまでは戒を守らない」と反抗する。習学中の比丘はよく理解し、よく質問し、あまねく質問すべきである。
- 毀毘尼戒: この戒経(波羅提木叉)が誦出されつつある時に、「この戒経の誦出に何の益があるのか。悔恨と困惑と混乱をもたらすだけだ」と、誹謗する。
- 無知律戒: 何度もこの戒経が誦出されるのを聞きながら、「今初めて聞いた」と言う。
【注:つまり無知を破戒の言い訳にする。この場合の処罰は、元の罪に無知律戒がプラスされる】
- 瞋打比丘戒: 怒りから他の比丘を打つ。
- 搏比丘戒: 怒りから他の比丘を打とうと手を上げる。
- 無根僧残謗戒: 事実無く、他比丘が僧残罪を犯したと誹謗する。
- 疑悩比丘戒: 故意に他比丘に疑念をいだかせるような事を言い、比丘を不安がらせる。
- 屏聴四諍戒: 口論した相手から、後に詰問するため、盗聴する。
- 与欲後悔戒: 欠席のため、権利を委任した羯磨(会議)で決定された事項をののしる。
- 不与欲戒: 僧伽の会議に出席していて、私用等で退席する際、権利の委任をしないで黙して立ち去る。
- 同羯磨後悔戒: 僧伽の決定で(ある比丘に)衣が与えられたのに、後から(他の比丘が)不平を述べる。
- 廻与僧物戒: 僧伽の所得として寄進されたものであることを知っていながら、それを特定の個人に与える。
- 突入王宮戒: ことわり無く後宮に入る。
【注:様々な(十の)疑惑を負うため】
- 捉宝戒: 宝もしくは宝に相当するものを拾う。もしくは拾わしめる。ただし僧園内と宿舎内ま除く。その際は所有者に返すまで保管する。
- 非時入村落戒: 居合わせた比丘に告げないで、非時(午後から夜中)に村落に入る。緊急の場合を除く。
- 骨牙針筒戒: 骨、牙、角などで針筒(針入れ)を作らせる。発覚したらまずその針筒は打ち砕いて、後で懺悔するべきである。
- 過量牀足戒: 寝台や椅子を作るときは、床脚を仏指尺で八指【注:約40cm】以下にするべきである。しかるにこれを超えるならば、切断して、後で懺悔するべきである。
【注:長い床脚は、贅沢な貴人の趣味であることから、この戒ができた】
- 貯兜羅錦牀褥戒: 兜羅錦【注:贅沢な綿】を入れた寝台、椅子を作るならば、取り壊して、後で懺悔するべきである。
- 過量坐具戒: 坐具を作る際は規定の大きさにすべきである。その大きさは、長さは仏タク手で二タク手、幅一タク手半、縁は一タク手である。しかるにこれを超えるならば、切断して、後で懺悔するべきである。
【注:一仏タク手は二尺〜二尺四寸と説が分かれる。「タク」は磔の偏が手】
- 過量覆瘡衣戒: 覆瘡衣【注:皮膚病を覆う布】を作る際は、規定の大きさにすべきである。その大きさは、長さは仏タク手で四タク手、幅二タク手である。しかるにこれを超えるならば、切断して、後で懺悔するべきである。
- 過量雨浴衣戒: 雨浴衣を作る際は、規定の大きさにすべきである。その大きさは、長さは仏タク手で六タク手、幅二タク手半である。しかるにこれを超えるならば、切断して、後で懺悔するべきである。
- 与仏等量作衣戒: 仏陀の衣と等量、またはそれ以上の大きさの衣を作らせたら、切断して、後で懺悔するべきである。仏陀の衣の量は、長さは仏タク手で九タク手、幅六タク手である
諸大徳よ、九十二条の波逸提は誦出された。
以上九十二条に該当する罪を犯した者は、一名の比丘に告白し、懺悔するべきである。
- 諸長老よ、今この四波羅提提舎尼法(パーティデーサニーヤ)は誦出される。
- 非親尼受食戒: 市内で、親戚でない比丘尼の手より、食べ物を受け食べる。
- 比丘尼指授食戒: 在家にて、比丘尼が指図した食事を受ける。また指図を止めさせない。
- 学家過受食戒: 学家にて、過度に食事の布施を受ける。
【注:学家は、信仰心が厚く物に対する執着が無いから、過度に布施をして、破産する場合があるため、乞食を遠慮すべきである、という戒め】
- 阿蘭若住処受食戒: 阿蘭若住処の中には、危険な場所があるから、信者に危険を告げなくてはならないのに、それをせず、病気でないのに、信者に(危険箇所まで)食事を運ばせる。
諸長老よ、四波羅提提舎尼法は誦出された。
以上四条に該当する罪を犯した者は、一名の比丘に告白し、懺悔するべきである。
【注:懺悔の形としては波逸提法と変わらないが、こちらの方が幾分軽い罪である】
- 諸大徳よ、いまこの学法(セーキャ・ダンマ 衆学法)は誦出される。
- 完全に内衣(内衣・裙)を着るべきである。
- 完全に衣(三衣その他)を着るべきである。
- よく身を覆って俗家の家に行くべきである。
- よく身を覆って俗家の家に坐すべきである。
- よく防護されて俗家に入るべきである。
- よく防護されて俗家に坐るべきである。
- 眼を下方に向けて家内に入るべきである。
- 眼を下方に向けて家内に坐るべきである。
- 衣をはね上げて俗家の中に行かない。
- 衣をはね上げて俗家の中に坐らない。
- 高笑しつつ俗家の内に行かない。
- 高笑しつつ俗家の内に坐らない。
- 低声にて俗家の内に行くべきである。
- 低声にて俗家の内に坐るべきである。
- 身体を振りつつ俗家の内に行かない。
- 身体を振りつつ俗家の内に坐らない。
- 腕を振りつつ俗家内に入らない。
- 腕を振りつつ俗家内に坐らない。
- 頭を振りつつ俗家の内に行かない。
- 頭を振りつつ俗家の内に坐らない。
- 叉腰【注:両手を腰に当てて肘を張る。威張った様子になる】をなして俗家の内に行かない。
- 叉腰をなして俗家の内に坐らない。
- 頭を包んだままで俗家の内に行かない。
- 頭を包んだままで俗家の内に坐らない。
- 膝行して俗家の内に入らない。
- 交脚にて俗家の内に坐らない。
- 恭敬して施食を受けるべきである。
- 鉢を注視して施食を受けるべきである。
- 施食と適量のスープ(カレー等)を受けるべきである。【注:スープのみを欲しがらない】
- 鉢の縁と等しい量の施食を受けるべきである。【注:盛り上がる程受けない】
- 恭敬して施食を食べるべきである。
- 鉢を注視して施食を食べるべきである。
- 順次に施食を食べるべきである。【注:選り好みしない】
- スープと等量の施食を食べるべきである。
- 施食を塔のように周囲をえぐって食べない。
- さらに多くを望んで、スープや副菜を飯で覆わない。
- 無病であるのに、スープや飯を、美食を指定して乞うことをしない。
- 不満そうに他比丘の鉢を眺めない。
- 過度に大きな食団を作らない。
- 完全に円い食団を作るべきである。
- 飯食が口に近づく前に口を開けない。
- 食事中、手を全部口に入れない。
- 口に食飯を含んでしゃべらない。
- 食を口に投げ入れない。
- 半分かじりで鉢に食を戻さない。
- 頬をふくらませて食べない。
- 手を振りつつ食事をしない。
- 飯粒をこぼさない。
- 舌を出して食べない。
- チャプチャプと音を立てて食べない。
- スルスルと音を立てて飲まない。
- 手をなめて食べない。
- 鉢をなめて食べない。
- 唇をなめて食べない。
- 食物が付着した手で飲水器を取らない。
- 飯粒の付着した鉢を洗った水を、俗家の中に捨てない。
- 無病なのに日傘をさした者に法を説かない。【注:無作法な相手に法を説かない】
- 無病なのに杖をついた者に法を説かない。
- 無病なのに刀を捉える者に法を説かない。
- 無病なのに武器を持つ者に法を説かない。
- 無病なのに靴をはいた者に法を説かない。
- 無病なのに草履をはいた者に法を説かない。
- 無病なのに乗り物に乗っている者に法を説かない。
- 無病なのに横になっている者に法を説かない。
- 無病なのに行儀の悪い座り方をしている者に法を説かない。
- 無病なのに頭をまとっている者に法を説かない。
- 無病なのに頭を覆っている者に法を説かない。
- 地面に坐って、無病なのに床座に坐っている者に法を説かない。
- 低い座に坐って、無病なのに高い座に坐っている者に法を説かない。
- 立ったまま、坐っている無病の者に法を説かない。
- 後ろから、前を行く無病の者に法を説かない。
- 傍道から、本道を行く無病の者に法を説かない。
- 無病なのに、立って大小便をしない。
- 無病なのに、生草上に大小便をしたり、唾を吐かない。
【注:草が枯れる事があるため】
- 無病なのに、水中に大小便をしたり、唾を吐かない。
諸大徳よ、すでにこの学法は誦出された。
この衆学法を犯した者は、自己自身の心中にて悔やみを念じ、学べば、罪は滅する。
- 諸大徳よ、ここにこれらの七滅諍法(アティカラナサマタ)は誦出される。諍事の起こるごとに、それを滅除し、静止するために、
- 現前毘尼が与えられるべきである。
【注:罪を犯した比丘が、僧伽の面前で、個人の面前で、事実の面前で、法の面前で裁決されるもの】
- 憶念毘尼が与えられるべきである。
【注:憶念陳述により充分に調査し、有罪か無罪かを僧伽が決めるもの】
- 不癡毘尼が与えられるべきである。
【注:禅定が行き過ぎてたため、精神錯乱した比丘を、事実を確かめた上、無罪とする】
- 自言治がなされるべきである。
【注:自白を正しい告白と認め判決する】
- 多人語
【注:多数決で決定する】
- 覓罪相
【注:虚言をする比丘を糾弾する】
- 如草覆地と、
【注:僧伽の意見が大きく分かれ、分裂の危機にが迫った時、風が草になびくように、地にひれ伏し、互いに懺悔しあい、罪を許しあう】
諸大徳よ、七滅諍法は誦出された。
諸大徳よ、因縁は誦出された。四波羅夷法は誦出された。十三僧残法は誦出された。二不定法は誦出された。三十捨堕法は誦出された。九十二波逸提法は誦出された。四波羅提提舎尼法は誦出された。学法は誦出された。七滅諍法は誦出された。
仏の戒経に入り、戒経に収められたものは、すべて半月毎に誦出される。そこにおいて、一切の和合し、歓喜し、無諍なる者たちによって修学されるべきである。
参考資料
二百五十戒の研究 T〜W [平川彰著作集/春秋社]
インド・東南アジア仏教研究U 上座部仏教 [佐々木教悟著/平樂寺書店]
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