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九条武子

古今東西の名言

歌人 明如上人の次女 【浄土の風だより】
 


みずからの内面が、つねに悪の衝動になやまされていながら、なお、光のなかに住む歓びと安らかさを味わう。――そこに他力廻向の体験がある。


善をよろこび悪をにくむは人情である。しかし悪を嫌って顧みなかったなら、悪は永久に救われるときがないであろう。


みずや君 あすは散りなん 花だにも 力のかぎり ひとときを咲く


われらの歎きは、短き命をもつてゐることにあるのではなく、瞬間の生命を、よく生かし得ないところに在る。


同一のものを、何人も同一に味はひ得ないところに、因業の量りなき理を覚える。しかし何人も同一であり得ないところにまた、個々の生命の宿つてゐることが知られる。


みずからの信念に忠実なのは、讃むるべきことである。しかし理智の光にみちびかれることなくして努力しても、それは結局、無用の徒労に終るであろう。


善はすすめるべきことである。しかし何人(なんびと)も、みずからの善を誇ってはならない。


弱き者こそ強くありたい


ひかりは呪われた罪をこそ照らしてくれる。悩みのあるところ、ひかりはつねに、悩めるものと偕(とも)にあるのである。


荘厳な自然美は、人間の醜い情意の世界を否定して眺められるのではない。人間の小なる有限を知るがゆゑに、天地の悠久なる無限がなつかしまれるのである。


何事も人間の子の迷いかや、月は冷たき久遠の光


孤独の世界にまで、自らを高めてゆく努力を蔑んではならない。孤独のさびしさにとざされてゐるものこそ、互に許し合ひ、信じ合ふ世界をもとむる心に燃えてゐるのである。


 奇行を衒[てら]ひ、あるひは異様な姿をもつて、人の注意をもとむる企ては、最も卑しむべきことである。
 狂人は、人の驚く顔をみてよろこぶ。人が驚きさへすれば満足するのである。ゆゑに、人を驚かすためには、手段をえらばない。
 近代はすべての方面において、驚異に満たされてゐる。人々は、あまりに驚くべく強ひられてゐる。しかし地上に於ける営みは、畢竟、平凡な人間の道を辿りつゞけるに過ぎない。所詮、平凡なるべき営みをして、強ひて非凡なるべく装はうとする今日においては、平凡な人間性に目覚めてゐる人の存在は、むしろ驚異であらうと思ふ。


  黒髪のむすぼれ
 女の心を象徴するものは黒髪である。胸のおもひの乱れたる朝の鏡には、千筋の髪のひとつ/\が、泣きぬれてゐるかのやうである。よろこびに迎へた嬉しき朝は、艶やかなふくらみをもつて、むすぼれさへも容易に梳づられてゆく。
   元結のしまらぬあさは日一日黒髪さへもそむくかとおもふ
 黒髪は如何にうつくしく飾られても、みづからの心のむすぼれてゐる日は、かぎりなき寂しさを感ぜずにはをられない。私たちは、つねにいつはりのない内面をもつて、爽やかに外面の美を荘厳したい。



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浄土の風だより(浄土真宗本願寺派 浄風山吹上寺サイト)